流の作業場

剣雄伝記〜氷の女王編 短編










フリトフルと呼ばれた大陸、嘗て第1次十年戦争と呼ばれる戦争があった

多くの人が死に、多くの国家がその姿を消すことになるほどの大戦争だった

人々、国家はその反省から、国家間の戦闘、過大兵力の所持を戒める条約を結び、永久に続くと思われる程の平和の時代を過ごした
しかし、人の世に永久の平和などあり得ないのだろうか


それから百年、第二次十年戦争と後に名づけられる大戦争が勃発し、一世紀の平和の幕は下ろされる





その第二次大陸戦争の勃発す数年前の話である






大陸最西に200年続く、平和で豊かな国があった 

その国を「銀の国」という  金銀、宝石が出土する豊かで平和な国だ

その歴代王は政治に秀で、兎角、領民に寛大で優しく、現王もそれを次いで統治を行い、名君と言われた

この王は40歳でこの安定した治世は当分続くだろうと誰もが思っていた



しかし、その年。事件が起こる


健康で長生きするであろうと思われた王が倒れたのだ


王は後事を定める間も無く2日で天界の門を叩き、国は大混乱に陥る







彼の実子はたった一人で 娘のマリア=フルーレイト当時7歳である

他に後妻と血の繋がらない兄は居たが。これが争いの元で

正統な血族で、政治など、出来ようハズも無いマリア派と 正統でないが妻と若い王子を立てる派で真っ二つに別れ

跡目争いが勃発する事となる









マリアは生まれてから4歳になるまで碌に口も聞かない子供で「口が聞けないのか」 「変人なのか」と
噂された実子で世間の覚えも良くない

王は、最高級の陶器で作られた、と名高かった、妻の生き写しかと思う程、母に似て、美しい娘を

それでも勿論可愛がったが、基本的に父である王としか口を聞かなかった

ある日、マリアが父の蔵書に興味を示し、読みふけっていたので王は自分の蔵書のある
書庫の鍵を渡し自由にさせた

するとマリアはそこにほぼ一日中篭り本を読み漁った

食事もせず、出てこない姫に近習の者は心配して「せめてお食事を‥」と話掛けた時マリアは

「そこに置け」とだけ言い、本を読み漁りながら食事を採る徹底ぶりで周囲は訝しいんだ



それが2年程続いた後、マリアに友達が出来る 

銀の国の全軍指揮官で王の古参の将で宿将グラムバトル高年の騎士の息子である

彼はクルツ、当事10歳で後の事を心配した王やグラムの配慮で引き合わされた

「子供同士」なら、という考えだったが、それは成功した



クルツは開口一番自己紹介でこういった「宜しくマリア、クルツだよ」と

ある意味普通の子供同士の話であるが、マリアは姫であり変人と噂がある人物、それなりの礼儀を
頼まなくてもする人間が多いがクルツは普通にそういった

周囲は「機嫌を損ねなければいいが‥」と思ったが

マリアは意外にも

「マリア=フルーレイトだ。よろしく頼む」そう普通に返したのだ



その後もクルツは普通に聞き マリアが普通に返す、とやり取りが続き周囲の者も驚いた

この時、王もグラムバトルもようやく姫の心理を理解した

「マリアは自分に傅く様な人間が嫌いなんだと」

口が聞けないのではなく、「聞かなかった」のだと




その後二人は仲良くなり遊ぶようにもなる、マリアは相変わらず本ばかり読んでいたが。

ある日王と姫と将とクルツで食事をしていたときクルツは何気無く自分が不思議に思っていた事を
マリアにそのまま聞いた




「マリアは何で本ばかり読んでいるの?そんなに面白い?」と


マリアはここで子供とは思えぬとんでも無い返答をした


「私は何れ父の後を継いで、王、女王になる事だろう、その為の準備はいくらやっても
足りるという事は無いだから勉強する」
と返した


これには周囲も仰天した、この時6歳の少女は既にそこまで考えて行動していたのだ


「私は武は出来ないだろう。だから知に学ぶ」


「なら僕は、父さんに習って騎士になるよ、マリアの武になるよ」と約束した


マリアは非凡な才能を持っている事を知った王は、以後は、マリアが「やりたい」という事を理由を問わず
自由にやらせた

当人が宣言したとおり「武」には才は無かったが。馬を乗り、軍にも出入り、
城下に出ては人々の生活を視察しては
何でも質問して聞き周り。また本を読むという生活を続けた




そしてこの跡目事件の発生である







マリアは城の権力争い等興味は無かったが、このような事態になってはそうもいかなかった

まず、マリアは王の古参の宿将でもあり親交もあるグラムの屋敷に訪問し会談を持った




「グラム、そちは私が王では不服か?」と問う

「私は姫をよく知っておりますし、正統な血族である姫が跡目を継ぐのは当然です」と返す


そう前置きして


「しかしならが、姫は7歳、皆が不満や不安を覚えるのは当然でしょう「あの王の代わりが出来るのか?」と」

と思いの丈、周囲から姫はどう見られているのかを包み隠さず述べた



「そうだろうな。だが、七歳の子供だから、というのは思い込みじゃ
民にとって大事なのは、誰がやろうと関係ない。「良い治世」である。私はそれを見せれば皆不満や不安は消えよう」

「それが出来ますか?姫?」


「御主が協力するなら見せよう。わらわに付いて来てくれ」


「では、それを見せるまでお付き合いしましょう」



とグラムを自分の側に引き込んだ

いくら言を弄しても言うだけなら誰でも出来る。だから見せると口説いた




以降の行動は迅速で狡猾だった

まず、王の遺体を調査させる、と告知し、子飼いの政治官にそれをやらせる

父の死に不審な点があると発表


国葬の用意を進めると同時に武力闘争等を起こさせない様にグラムを動かしけん制しつつ、義母側に付いた

領主、官僚の内密調査を行わせる





いざ、国葬が開始され、それが終了すると同時に多くの人の見ている前で




父の死は毒殺によるものと判明、発表し自ら毒瓶を出して聴衆に見せ。内密調査の結果
その犯人は義母であるとし

引き出す「何を馬鹿な!」言い掛けた義母にその毒瓶の中身を浴びせかける。


七転八倒して苦しむ義母を指して

「この瓶はこの女の部屋から出た物だ。見よ、この毒を少量ずづ盛って父を殺したのだ」と言い
その場で即座に自ら刀を抜いて処刑してしまった

更に既に調査させておいた、義母側の官僚、地方領主の不正を書面で用意して聴衆の面前で暴露。

即座にグラムの近衛がそれらの参列した者を即時捕らえ。拘束

義母の息子、義理の兄には自裁を勧め、自殺させ。悲観して自殺したと発表して片付けた



即時、七歳にて女王に即位





王の死の不審な点の所、は事実だが。犯人は義母、というのは明確な証拠は無かったが

この際を利用して敵する者を徹底排除してのけた






この時グラムバトルに


「私を卑劣と思うか?」と問いかけたが

「事情が明らかになればそう思う者も出るかも知れませんが。この一件の裏を知る者は余人には居りません。

それに前王の死が毒殺であるのは事実で、排除した中にそれを行った者が居るのは間違い無いでしょう」


と、慰めた


「御主個人の心情はどうなのだ?このような私についてくるのか?」


「マリア様が正統な後継者であるのは間違いありません、私の意見は変わりません。王の死は驚きですが
遅い早いの違いはあれど。継ぐのはマリア様であるべきです。
其の点に一切不満はありません」



「そもそも跡目争い等せず、正統な血筋のマリア様に臣従すれば、その者は排除されなかったのです
彼らの判断が間違った結果でしかありません」


「そうかも知れぬな」


「それに」

「?」

「マリア様は見せると宣言しました。私はそれを見るまでは、お付き合いさせてもらいます」

「そうか、ではそれまで宜しく頼む」


結果、それまで、では無かったのだが













その後、罰した領主、官僚には自分の側に付いた味方から「能力のうんぬんに関わらず不正をしないもの」を充て
マリアの命令を守る者には恩賞の糸目を付けず報いる

民からすれば「税金で食ってるくせに不正等とんでもない」という思いがあり、
この一連の事態でマリアへの批判はゼロ

それどころか英雄視するほどだった



更にマリアは政治に置いて、兎角「民」を中心とした治世を行う


収穫の出来、不出来で微妙な補助、減税、増税等、即座に調整し
役人の不正には徹底して当たり罰する、従順で守る者には倍報いる

飴とムチと完全に使い分けた


自国から出土する金銀、宝石が元々豊富であり、財政面を気にする状態ではなく
「発表」と「宣誓」によって
成果を喧伝するだけで容易に民の心をつかんだ


これら一連の事態の安定と治世の1年でマリアは「女王」としての立場を固め、八歳の女王を批判する者は
無くなったのである









マリアは更に一年の間に様々な国政を行う


まず軍政改革を行い、当時、国家間条約によって固有の過大軍力を戒める条約もあり、
全軍合わせて
800名しか居なかったが

希望者優先に軍力を増やし、更に
「日常の仕事と半々で良い、軍に所属し有事に備える者には給与も出す」
とし
2000人集めた

また、自らは武に明るくない為、「戦いが得意で無い者でも結果を出せる部隊」

としてマリア軍の特徴でもある

高速騎馬、弓騎馬を組織。更に通常の槍の三倍の長さの槍隊も新設

未熟な兵にしてみれば「相手の届かない所から撃てる」この部隊は恐れが少なく有効だろうと考えた

また、難しい錬度が必要な剣兵と違い。馬に乗れる、遠くから撃つ 槍を構えてただ突くだけの部隊は「半々兵」でも十分であった




近隣諸国は「条約違反ではないか?」と言ってきたが

「争い等何時起こるか分からぬ、その準備をしているだけだ」と退ける


更に「無侵攻宣誓書」というのを作り近接する国に送り、こちらからは攻めないので許可して欲しい
と頼み込み

「有事の際にはわらわの軍を持って援軍を差し向ける」と告知した上で、
貿易関税の減額を土産に諸侯に許可させる

「それならば‥」と周辺国も認める

また、自ら前線に立つとし、直属軍も組織した。この時点で総兵力は三千二百に成っている

大陸でこの時点、この規模の兵力を維持したのはベルフを除くと、3国だけである








政治に置いては、より安定を図るとし。

「マリア治世」と呼ばれる政策を打つ


農地改革、鉱山の安定、効率化、商業援助。等積極的に行い
「銀の国」歴史上最も潤った、と言わしめる程発展と安定を齎した


この時マリアは

「税を払うのは民や領民なのだから、彼らが潤えば国も潤う。良い土に良い水を与えれば実りは
倍にして戻る、痩せた土に種も撒かず、水も与えず、実りを期待するのは馬鹿のやる事じゃ」


政治官との会議の場で言い。

9歳にして「良い治世とは何か」を誰よりも理解した女王である事を
周囲の者に示した

現代社会に置いてもこれを理解して行った政治家は皆無である事を考えれば
彼女が如何に優れた名君であったか想像するに易いだろう




ただ、予想外の事もあった。

マリアの治世の評判が各国に流れ流民が押し寄せた事、いきなり国民が3割も増えて、
職の無い者が増えてしまった

元々裕福だった国の経済が更に「マリア治世」によって裕福になってしまい、
国家予算の使い道が無くなる程
税収が増えたこと


この2点を解決するためにマリアは


「何れ平和が崩れれば使う事になるだろう」と 
領内の2つの 南と東街道の整備、港に軍船の建造を行い。

更に公的一時住居の建設をさせ、戦時、今回の様な流民のとりあえず住居に充てた

雇用と予算の使い道と、戦争の準備、非常時の避難施設を同時に、捻出した政策を行う


また、一時的な事業では終わった後悪くする恐れがある、とし
人工林や森の植樹を治水工事と共に王都周辺に展開する、森の恵み、木材や実、獣の肉や皮を生み出す事にした
これらは定期的に手を加える必要があり、継続事業として有効であろうと考えた



所謂(いわゆる)「大規模公共工事」をこの時代既に理解して次々行ったのだ



ただ、それでも金余りになり、税を微妙に下げつつ

「何れ有事の際役に立つじゃろう」

と国家予算の余りの一部を自らの資産として転用

この頃からマリアの金品、宝石、魔法具、の収集が始まった




ちなみにその中から「壊れない長剣」のエンチャント武器を初めに下賜されたのがグラムバトルでもある
カッコイイじゃろう?とマリアは、名前も「コンバルションビューティーソード」と名づけたが
余りにセンスの悪さにそこは拒否された




まさか壊れない剣などという物が存在すると知らず、初めて手にしたグラムも

「こんな物があるとは‥」と仰天したが同時に
その「揺らめき輝く宝玉が美しく、彼が全力で剣を振るっても壊れない剣」

に感動して以降の戦いでも、陛下から下賜されたから「飾っておく」のではなく

「戦場で使った」のである

「グラムらしい」とマリアは言ってそれ自体喜んだが、グラムは

「武器は使ってこその武器でしょう」と言った



さすがに名前は「ビューティーソード」など、いくらなんでもダサ過ぎるので

効果そのままの意味の「アンブレイカブル」に改名して家宝として使った。

ちなみにお値段は金千百枚である








その後、「武の者を登用しよう」と毎年武芸大会を破格の賞金で開催、そこで
良い結果を出した者で
希望者も軍に重用した

ちなみにその2回大会でいきなり優勝したのが放浪の旅の剣士。ジェイドである





マリアに「お言葉」と「賞金」を頂く場でジェイドは傅き、礼節を持って

「ジェイド=ホロウッドです、マリア陛下」と言ったが


マリアは王座に片肘に頬杖をついてつまらなそうに

「マリアでよい、頭を下げられるも嫌いじゃ」と言ってのける

「また始まった‥」と近習の者は思ったが、そう言われたジェイドは意外にもスッと立ち上がり



「ではマリア」と言ってのけた



近習の者は仰天して固まった。その態度がマリアの逆鱗に触れはしないかと
半分慄いての事であるが

一方マリアはそれを聞いて吹き出していた


ひときしり笑った後


「わらわにそう言われて、ほんとにそう言ったのはお前が初めてじゃ。
御主わらわが怒るとは思わなかったのか?」と

ケタケタ笑った

「自分で求めたクセに実際されたら怒るのはおかしいだろう」と返し

「その通りじゃ、なんでそんな事が皆分からんかのぅ」と笑いぱなしだった


マリアは別に試したり、からかって客や面会者、皆にそういうのではない「特別扱い」や「女王」として
おっかなびっくりされるのが嫌いなだけだった


ジェイドはそれを見抜いて普通に接したのでもなく
「それがいいならそうしよう」とやって見せただけである


ただ、皆がそういう態度なのも彼らがするのも心情的に理解できているので咎めはしないのだが。
その心情を彼に聞いてみた


「御主、わらわの評判を知っておろう、わらわが怒り出して斬ろうとしたらどうするつもりじゃ?」

「全員倒して逃げるさ」

「ほんとに愉快な奴じゃ」とまた腹を抱えて笑い出した



マリアはジェイドを客としてもてなし、城に部屋も与えた。

ほぼ毎日呼び出し、自分の知らない世界の旅、彼の生い立ち、を聞き。また彼の強さに惹かれた

彼女は彼をなんとか引きとめようと色々苦心した

自己の資産から色々与えたり

近習の女を送り込んで誘惑させたり。時に自分もやってみたりとしたり

また「あのマリア女王が!?」と噂になり、どこに行っても女性に囲まれる事態になったが

彼には全く通じなかった




3ヶ月程して、「俺もそろそろ‥」と旅にまた出てしまうが。
彼を引き止めるのは無理だと悟ったマリアはそれを認めた

別れの席で


「旅が終わったらまた来い、話を聞きたいぞ」と言った

「どっかでのたれ死んでなければ必ず」と約束だけは取り付けた

その際、「貧乏旅では辛かろう」と金貨を500ほど出したが。

「そんなに使いきれねーし、重いだろう」と武芸大会の優勝賞金だけ貰っていった






彼が去った後、彼の部屋には、それまで与えた金品がそのまま手付かずで残してあった






この後にグラムの息子のクルツが「騎士」として城に上がる

そこで彼はマリアとの会見で「ごめん、僕は父の様な「武」は持ってなかったみたいだよ」

と自己の剣と将としての才覚の無さ、約束を守れなかった事を告白し謝意をのべた

しかしマリアは「剣が無理でも盾はできよう」と直属軍の近衛に加えた

クルツは「騎士」としてはまず立派なもので、公正で頭が良く、人当たりが極めて良いので

自分の手勢から「高速騎馬」の一部を与え指揮を任せた。また、彼は非常に「審美眼」
に優れた者だった

そのたしかな「眼」は多くの人を見分け、これぞという人物を見分け見出す事になる

更に彼は、マリアの「言」を一つ聞いて10理解する程明晰な頭脳を持っていたので様々な役割を果たした

政治、軍事において補佐し、平時にあっては領民を見て。有事にあっては、いち早く敵の行動を掴み

少数を持って囮や奇襲を行うなど、ジョーカー部隊の様な役割を誰よりも効率的に果たした

後年にはマリアはクルツに「戦場では自由に動け、お前の判断が間違っていた事を
見たことが無い」
と言わしめ

完全自由遊撃隊の立場を与えられる事になる











彼女が十一歳の時に第二次十年戦争が勃発

瞬く間に大陸中央周辺をベルフに奪われる、その快進撃は留まる事を知らず
翌年には銀の国南の国まで侵攻


この際、近隣国に約束した通り、マリアは自己の軍を攻められた国に派兵、しかしながら

大陸条約を守った国々は、援軍を受ける国より援軍で寄越す兵のが数が多く精強で強い
というマヌケな事態になっており

碌に戦闘も出来ず敗退し。マリアも何もする事も無く、軍を引く


「古臭いルールを守って国を失っては何にも成らんだろう‥」とマリアは呆れた







ベルフはこの時点で「銀の国は侵攻の邪魔になる」と考え侵攻を指示

任された将が銀の国へ海に面した、南街道から侵攻。



この方面は、丘、海、湿地、草原、と策を差し挟む余地が大いにあり、マリアの独壇場でもあった



マリアは自らの直属軍を出し自ら出撃

南街道の自国境界線に並ぶように立つ丘を背後にして、草原を挟んで。正面決戦を挑む




マリアは最前線に立ち戦うが、そもそも戦闘など一般兵のレベルで強い訳もなく

マリアはベルフ軍に押されるまま丘まで撤退戦のような形で

ズルズル引き下がる


「あの女王は弱い」「あの子供女王を捕らえればそれで終わり」とばかりにしつこく
追撃戦を展開するが
マリアが丘の向こうに軍を引いた途端。


左右の丘から伏兵が現れ超長槍部隊がベルフ軍に側面攻撃
一時それを食い止めたが、マリアと交代で軍を入れ替える様に前に出てきた
宿将グラムの軍が正面から一斉突撃


これはたまらぬとベルフ軍が後退しようとすると。


背後から高速騎馬隊が襲撃、高速騎馬は開戦前に出撃し、丘を外から大回りして
発見されないように動き

ベルフ軍の背後まで回ってこのタイミングに間に合わせた。



4方から攻められ何も出来ずにベルフ軍は敗退

撤退時にも弓騎馬で散々背中を突かれまくって

軍を9割失ってほぼ全滅の憂き目に会う




マリアが「直属軍」を組織し、前線で戦う、のは、かっこつけや心理効果を狙った物ではなく

主力その物を「高価な囮」として使う為だった。そして今回の策でそれをやってのけた








翌年、夏の終わり、諦めずベルフ軍は前回の倍の兵力を用意する

しかし即時侵攻、開戦とならず。マリアはベルフの領地に赴き和平交渉を計る

その会談の場でマリアは向こうに有利な条件をチラつかせながら、和平交渉を引き延ばし

最終的には、無条件降伏に近い条件まで譲歩して、いよいよ締結か!?と思わせた

途端マリアは

交渉のテーブルをひっくり返して帰国

激怒したベルフの将は銀の国へ侵攻する





同じような場所での開戦と成ったが、今度はマリアは自分の軍を出さず、宿将グラムに任せた

正統的な正面決戦であったがグラムはよくこれを防ぎ一進一退の攻防となるが数が違う

これはいけると思ったが、そこでマリアの直属軍が長槍兵と共に現れ左側面後方から襲撃

更に索敵範囲外、東大回りで進行して右側面から高速騎馬を率いたクルツの隊が襲撃

三方包囲狭激戦を展開した


「左は海だろう!?どこから出てきた!?」と混乱する。



マリアは帰国して即時開戦前から、王都近くの港町から事前に用意してあった船を出して軍と共に出撃
7日掛けてグラムが戦端を開いたタイミングに合わせて敵の背後に出て一斉襲撃した



だが、数に勝るベルフ軍はこれを防ぐ、が


そこへ弓騎馬を出して「火矢」を撃ち掛ける。それは足元の「枯れ始めた草原」に一気に火を着けて広がる
そんなに燃える物では無いだろうと思ったが、火の広がり方が尋常ではなく瞬く間にベルフ軍を
焼き尽くした

「ただ油を撒いたのでは看破させる可能性がある」と

足元の草や浅い地中に子袋に包んだ油を用意してあった、それを踏み潰し中身が出て大火計に発展した


後はまともな戦闘に成り様もなく、火に撒かれて大混乱であるベルフ軍を
じわじわ包囲を広げながら
火から出て来る敵を槍で突き、空から矢を降らせ続け大敗退させる事となった





マリアの和平交渉は「枯れ始めた草原」と火計の演出。の時期まで時間を稼ぐ布石でしかなかった





この辺りの狡猾さ周到さ、手段を選ばぬ奇策、明哲な頭脳、政治、交渉、そして
少女と思えぬ絶世の美から


「氷の彫刻で作られた少女」

「氷の剣の女王」と認知され。総評して「氷の女王」と呼ばれるようになる






事態を聞いた皇帝ベルフは銀の国への再戦を前線指揮官に止めさせると同時に
五大将の 知のアリオスを呼んで意見を求めた



「あの女王の知略と戦えるか?」と

アリオスは 

「私でも、無理でしょうな」と短く言って否定する

更に

「少なくとも「攻め」では無理です、引っ張り出さないと勝負になりません
と言っても誘いに乗るような相手でもありますまい」

「ではどうする?」

「戦わないのが最善ですよ、やるなら大陸を大方攻め落としてから、全軍を持って当たるべきでしょうな」

「分かった、あの国は最後にしよう」

「賢明です」

「後の事はお前に任す、好きにしろ」

「ハ」と、極端に短い軍議が終了して以後の方針が決まる






アリオスは1月後、銀の国に自ら乗り込み、マリアと会談する






「ベルフ、五大将のアリオスです女王」

「何か用か?アリオス殿」

「此度の戦、見事でした」

「皮肉か?」

「まさか。皇帝も感心する程のお手並み、そこで私、アリオスが女王をなんとかせよと命を受けましてな」

「それは楽しみな事だな」

「ところが私、女王を倒す策等、全く思いつきませんで。ここは一つ休戦を願いたいと思いまして」

「ムシの良い話じゃの」

「全くですが、私、知のアリオス等と呼ばれて居りますが、勝てる方策が無いもので」

「で?」

「敗戦賠償として金20万程用意させて頂きます、これを月分割で収めさせて頂きます。
これでどうにか収めてくれませぬか?」

「悪くない話だが、ソチらが約束を守るとは思えん」

「ですから分割で、払い終わるまで休戦というのは如何でしょう、無論国家間条約として書面にします
恐らく2年はお互い争わずに済みます。時限条約という奴ですね。以降は女王様も好きに出来ましょう」



マリアはしばらく考えていたようだが



「まあよかろう、わらわとしても、自国民を外敵の脅威から期間限定で確実に守れるというならそれは良い」

「ありがとうございます」

「だが、こちらも一つ条件がある」

「なんでしょう」


「わらわは軍の増強の際、隣国に「外敵の脅威あらば援軍を出す」と約束して認めさせておる
故におぬしらが我が国隣国に侵攻した場合、その約束を優先させて貰う。それでも良ければ飲もう」


「結構でございます。我々は「氷の女王」と戦いたくありません。2年は必ず銀の国、並びに
その周辺国への侵攻は致しません」


「よかろう、では、条約書を用意しよう」





こうしてベルフと銀の国の条約が交わされ、その「二年間」の約束は守られる事となり
つかの間の平和が訪れる事となる







以降ベルフとの戦いは周辺国含めて、「あの」アルベルトの侵攻作戦まで、起こらず、
銀の国に戦火が及ぶ事は無かった




これがマリアの生い立ち「氷の女王」と呼ばれるようになるまで彼女の「伝記」である



inserted by FC2 system