流の作業場

剣雄伝記〜罪人の島編








ベルフ帝国が所持する東の港



彼女は両手に枷を嵌められ兵士に連れられ。船に乗った

一度私をチラリと見てうっすらと笑みを向けた

遠くから見ているだけの私に口をパクパクさせて何かを伝えようとした

私は彼女の言葉が消える距離に居ない、だからそうしたのだ

「また、どこかで会いましょう」

たしかにそう言った

ライナはそのまま大きな船に多くの囚人達と乗り込んだ。







「そんな顔をしないでくださいよイリアさん」

隣に立っているアリオスさんがそう言った

「無理言わないでください、こんな時に」

彼は溜息をついた

「ライナさんは努めてああいう顔を見せたんです。そしてまた会おうと」

「分かってます。けど、私だけこんな立場でライナをただ見送るだけなんて‥」

「気持ちは分かります」

「こんな嫌な気分になるなら一緒に行ったほうがマシだったわ」

「貴女には荷が重いですよ次の再開すら期待できないでしょう」

「ライナなら生き残ると?」

「エリザベート様と戦える人ですからね、それに‥」

「資質、ですか」

「はい、どのような状況に置いても生存する可能性が高い。そういう力の持ち主だからです」

「単なる可能性でしょう」

「ですが100%等物事にはありません、ならば、高い確率の選択をするのは正しいでしょう」

「ええ‥」

「それに賭けて待つ、のは。それほどおかしな事ではないでしょう」

「生きて、待つ、か‥」





そうして、彼女を乗せた船は出向していった




ベルフ国が大陸開戦前から自国領土として所持する離れ島

大陸東南東に位置する島で、足の速い船で行かなければ上陸できない場所にある

荒れた流れの速い海流で自力脱出不可能とされる所だ


本来使い道の無い島で特に何かが採れるという場所でもないのだが
ベルフ五大将の一人アリオスがその立地を利用して
隔離施設を作り、そこに罪人を送る、刑務所のような場所に作り変えた


その島の名は「罪人島」と呼ばれた










その島に「今日も」送られてきた囚人達が降り立つ。

そこで、朝の朝礼の様に並ばされて。おそらく
ここの責任者と思わしき中年の男が高台から演説を始める

「諸君らは、この罪人島に送られた囚人である。本来なら、刑期、処罰を待ち
ここから出られるのはそれを終えた、死人となってから話だ、それだけの事を諸君は行ってきた」

「が、ここは戦いの場でもある、もし、ここの闘技場で戦う者は処刑の時間までの猶予を1月与えよう
そうして、トータルで50勝したものは」

「褒美としてここから、出してやろう無罪放免だ」



周囲からどよめきの声が挙がる。当然だろう、大抵の者は極刑を免れない重罪犯だ
それを勝ったら出してやると成れば驚くしかない
囚人一同から声が挙がる

「ほんとかよ!?」

「ウソではないだろうな?所長!!」

それは彼にとっては何時もの事だ、だからこう答える

「事実である、これはベルフ国としての約束事であり、かならず守る
また、闘技で結果を出せば、その者を金を払って雇おうとする「客」も出るだろう
それが諸君らを拘束する「賠償金」に成り、開放もしよう」

そう言われては反対する者は居ない。
脱獄する必要も、逃げる必要も無い「ただ勝てばいいのだ」
これほど美味しい話はまずないだろう


これが罪人島のシステムで、囚人を闘技場で戦わせる、客を呼んで稼がせる
優秀な者は金持ちに買われる、そうして金を集めるやり方だ
ただ「囚人を殺す」よりは余程効率的な方法だ
第一処刑の手間が無いのだ



その刑務所は闘技場と併設して存在している
周囲を高い壁に囲まれ、出入り口、壁の上の通路にポツポツとベルフの兵が監視をしている
決して多くは無い。当然だろう
「わざわざ反乱や脱走をする理由が無い」のだ

その壁の向こう側に1人1人出入り口門の衛兵に姓名を尋ねられ、中に通される

極めて面白くなさそうに、退屈そうにそれをこなすベルフ兵だったが
「彼女」の順番になるとそれは一変する

「名は?」

「ライナ=ブランシュ」

「お前が‥」


当然だろう、彼女の勇名は敵であったベルフ兵なら殆どの者が知っている
だが、衛兵は平静を無理やり作り対応した

「中央にある建物、の最上階、そこがお前の部屋だ、後は‥好きにしろ‥」

「好きにしろとは?」

「闘技場に出るならそれに備えて訓練するなり、やる事が無ければ、寝て過ごせ
中では自由だ。訓練用の武器と飯は配給所に置きっぱなしだ」

「それで好きにしろ‥か」

「特別なルールは無い、ただ、囚人同士の殺しは困る、それだけだ‥」

「分かった」


実際中に入ってみると、そこは刑務所というより、集落か街のようだった
誰も拘束されるわけでもなし、皆自由に動き回っているし、相当な広さもある
住人は異常にゴツイかガラが悪いのと店の類が無く、女が少ないというだけだ

ライナが一回り歩いて見学していると
道端で賭け事をしている集団や屯って居る連中から「ヒュ〜」という口笛やら
「1人ならこっちで一緒に遊ばないかい?」等次々声を掛けられる

それも当然だろう。女の重大犯罪者や戦争罪人等、そもそも多くない
ここでは「女」は珍しいのだ。ましてやライナは17歳、外見も中の上となればそうもなる
更に言えば合法的無法地帯なのだから何時何があってもおかしくない

そこにまた「ちょっと待ちなおじょうちゃん」と背後から声が掛かる
いい加減ウンザリだがそれに反応して目で見るが
これはまた如何にも元夜盗ですといった感じの男4人である
無視しようとも思ってそのまま歩き出すが今度の連中はしつこい

「オイオイ無視するなよお嬢ちゃん」と言って肩に手を乗せてくる

しかたなく一応の対応をする事にした

「何の用?」

「分かるだろ?ここは女は少ないんだ、ちょっと俺達の部屋にこないかい」

「ナンパのつもりか?」

「そうだ」

「悪いけど間に合ってる」

「ま、そういうなって」と、引くつもりは無かったようなので


「私は面食いなんでね、もう少しまともな顔に作り変えてから出直して」

そう言って離れる、が。向こうはそれが気に入らなかったらしい

「そういう態度は無いだろう?別にこっちは無理やりでも構わないんだぜ」

そう言って手を伸ばしてきたので、やむなくその手を掴んで手首を返してその場に投げて転がした

怪我をするような物ではない、柔術の小手投げだ

その場に転がる相手、どうやらそれも気に入らなかったらしく他の連中と共にライナの周囲を取り囲む
面倒くさい連中だ。だがそうなってはしかたない、そもそもお互い素手ならどうとでもなる

転がされたそいつがまず殴りかかってくるが、カウンターで鼻面に掌打を叩き込む
のけぞったそいつの腹に前蹴りを入れて後ろに吹き飛ばす

背後から掴みかかる相手に裏肘を顔面に当てて止める、振り向きながら腹に全力でミドルキック
それで二人目も吹っ飛ぶ

「後二人」

と思って構えるが、残り二人は対峙したまま動かなかった。
だが、其れだけではなかった

「何やってんだお前ら」

と一同に声が掛かって止められたからだ

連中はその声をかけてきた相手を知っているようだ、即座ライナから離れる

「アルバ‥」と呟くように言った

「お前らいい加減にしとけよ?相手にされてねーんだよ、大人しく諦めておけ」


ライナに絡んだ連中は「‥」と黙ってそそくさと去っていく
どうやら止めた男はここでは有名人らしい。まるでしかられた飼い犬のように連中は逃げた

その男は取り巻き女を二人連れていた、長身で筋肉質、無精ひげの中年とまでは行かない程度の年齢の男だった
別に礼を言う必要も無いのだが、間に割って入って要らぬ手間を省いてくれたのは事実だ、だから

「助かったわ、ありがとう」そう返した

「フ‥あいつ等がボコられるのをもう少し見てからでも良かったんだがな」

「別にいいわ、余計な手間が省けたし」

「そうか。俺はアルバトロス、通称アルバだ」

「有名人みたいね、私はライナよ」

お互いやさしくじんわり握るように握手を交わす


「お前1人か?ライナ」

「さっき来たばかりだしね」

「そうか、なら俺の所にこないか?1人だと面倒事が絶えんぞ」

ライナは彼の取り巻きの二人をチラリと見て

「女は足りてるんじゃない?色男さん」

「こいつらはそういう仲じゃねぇ。単なる保護だ」

「なるほど、寄らば大樹の陰、てやつね」

「ま、そういう事だな。」

「いいわ、色々聞きたい事もあるし」

「俺もだ」

見た目に反して、まともそうなこの男だと思い
そう言ってライナはアルバについていく。

彼に案内されて着いたのは中央宿舎の一階、それなりの広さで応接間の様でもある
そこには10人ほどの男女が特になにをするわけでもなくごろごろしている


「ここが俺らのたまり場だ、ま、ここに寝泊りしてればさっきの様な事はないぜ」

「悪いけど、寝泊りは簡便して欲しいわね、自分の部屋を割り当てられてるみたいだし」

「ほう、というとお前さん、余程の事をやってきたのか?」

「どういう意味」

「個別に部屋が貰えるのは相当な重罪犯かよほどベルフに都合が悪い奴
もしくは闘技前にケガでもされたら困る奴だ」

「ふーん、単なる戦争捕虜なんだけどねぇ」

「‥という事は相当殺したか?」

「さぁ‥数えた事はないけど、百か二百か‥」

「‥どこの国の武芸者だよ」

「草原の傭兵団、国は無いわ」


それを聞いて一同はライナをギョとして見た

「お前が?‥あのライナ=ブランシュか」

「有名なのかしら?」

「ハハ、ベルフのあの百人騎馬とやりあった連中だろ、知らん奴が居るかよ
しかもライナと言えば、エリザベートともタイマンして苦しめたって奴だ」

「苦しめたかどうかは知らないけど、一騎打ちはしたわね」

「こいつは余計なお世話が過ぎたみたいだな」

「悪い事とは思わないけど、それで自己を守れた人間はここに居るわけだし」

「意外だなぁ」

「何が?」

「もっと鬼みたいな女かと思ってたよ」

「イメージで決め付けない方がいいわよ。あのエリザベートもなかなかのいい女よ?」

「違いない」

お互い、前後の事情やここへ来た経緯等を話した
彼はアルバトロス、もちろん偽名だが、外では義賊として名を知られた男で
「武」もなかなかだそうだ、故にここで彼に敵対しようという人間は少なく
「寄らば大樹の陰」の結果このような事になっているらしい

「で、闘技なんだけど、月1度参加すれば一ヶ月延命って事でいいのね」

「うむ、賭け闘技自体は毎週やっているが、それが最低条件という事らしいな。まあ、勝ち負けは関係ないらしいが」

「そうなの?」

「ベルフ側からすりゃ生き残ればなんでもいいらしいけどな、そもそも毎回完全決着
殺し合いでは人が足りなくなる」

「ただ「出ない」奴は処刑だが」

「利益にならないからね」

「まあ、ただ、50勝という目安がある以上、勝たなければ一生このまま、て事にはなるだろうが」

「実際50勝してここを出た奴が居るのかしらね」

「さぁな、何人か居る、という噂だけは聞いたが、事実は分からん、そもそも此処が開かれて
まだ、2年くらいか」

「脱走者の類は?」

「ゼロだ、わざわざそんな事をする必要もないしな」

「誰でも戦える、て訳じゃないし、結構無謀な条件じゃないかしら?」

「賭けが成立しないような女、子供とかの事か?」

「ええ、まあ」

「そういうのを闘技の場で公開なぶり殺しにするのもそれなりのショーにはなるんだろう」

「悪趣味ね」

「金持ちの考える事はよく分からんよ。いやまあ、人間だれでもそういう面はあるんじゃないかとは思うが」

ふむ‥とライナは少々考え込んだ、それを見てアルバは

「なんだ?」

「いえ、さっさと50勝してここを出るには毎週出れば一年ね、と思ってね」

「フハハ、まあ、ライナ=ブランシュならそうだろうな」

「色々教えてくれてありがとう、助かったわ」

「おう、それ以外の事で疑問があるなら門に行って兵士に聞きな」

「分かったわ、とりあえずもう少し回ってみる」

「ああ、俺も行くぞ、また絡まれるだろうし」

「めんどくさいわね‥」

言って二人は再び表に出る

宿舎正面反対側にはかなり広い広場があり、更にその向こう側に闘技場、その手前に「店」がありそこに行ってみる
と言っても食料や刃引きした練習用の武器、ボロイ服等雑貨類がただ積まれているだけで
店員等がいるわけではない
要は「勝手に持っていけ」という事らしい

「食い物は微妙だがな」

「殆ど保存食ね‥」

「ああ、一応酒もあるぞ、恐ろしく安物で不味いが」

「色々おかしいでしょう‥」

「普通の刑務所と違って更正施設や罰を与える場じゃないからな、中に居る奴の不満を下げられればそれでいいのさ」

「とりあえず携帯保存食だけ貰っていこうかしら‥」

「まあ、年中ここに置きっぱなしだからいつでもいいんだがな」

「楽と言えば楽ね」





二人は出てそこで別れる、アルバが彼の取り巻きに呼ばれたからだ
また、いらぬナンパの類があるのは面倒だと思ったが、まあ、退屈しのぎ
程度にはなるだろうと思って
1人で歩き回ってみる

壁伝いに周囲をぐるりと回るが丁度宿舎の裏の細道に来ると騒ぎに出くわす
どう見ても喧嘩や戦闘の騒ぎだ

実際目にしてみるとそれは喧嘩や戦闘とは呼べない物だった

武器を持った男3人が少年1人を殴りつけている、早い話リンチにかけているだけだった

「おいおい、寝るのはえーよ」

「せっかく稽古つけてやってんのによ」

と蹲る少年の手や足を練習剣で殴りつける。彼は額から血を流していた

何時如何なる所、場所でもこの手の馬鹿は居なくならないものだと思ったが
悠長に見学している場合でもなさそうだ


「そこまでにしておけゴミ共」ライナはそうその連中を罵倒して割り込んだ

一斉にこちらを見るが、それを言ったのが女だと見ると露骨にニヤニヤしていた

「ゴミって俺達の事かいお嬢さん」

「他にゴミが居るのか?」

「何?‥」と男は不快そうな顔をみせた、が、だからどうしたとしかライナは思わなかった

「集団で無抵抗な者を叩く、ゴミ以外の何と表現すればいい?」

「貴様‥」と三人は少年から離れライナに対峙する

「ここは無意味な殺し合いや乱闘を推奨している訳ではない、節度を弁えろ、自由とはそういうものではない」

「勘違いするな、俺達はこのガキに稽古をつけてやってただけだ」

「これを稽古と呼ぶなら、今から私が貴様らを殴り殺しても稽古と呼べるな」

「グッ!」そう声を挙げて向こうは構えた、そして

「ふざけるな女!」と前に走りライナに剣を叩き付ける


相手は三人、武器も持っている楽勝だと思ったろう、だが、ライナにとっては
それですらハンデにも成らない程力の差があった


振り下ろす剣を握る手に左掌打を浴びせストップさせると同時に顎に右突きを返して1人昏倒させる

二人目に即座に膝横を蹴って崩し鼻面に頭突き

飛び掛ってくる三人目の突きをかわして喉に右掌打を軽く浴びせ倒す。

10秒も掛からず終わった



蹲り、呻く連中にライナは言い放った

「弱すぎて話にならん。稽古が必要なのはお前らの方だな。」

連中はライナを見上げて恨めしそうな顔を見せたが

「その腕じゃ闘技場で即死だぞ、そうなりたくなければ下らん事に時間を使わず
己の修練でもしたらどうだ?」

といわれて目を伏せたままだった


ライナは負傷した少年に「立てるか?」と、だけいい彼の手を引いてその場を離れた


その後アルバの所に連れて行き手当てを任せた
幸い、額の傷以外はたいしたケガも無くその日はそのまま彼らの所に預けた

宿舎の割り当てられた部屋がある、との事だったのでライナは建物を上がってそこに入るが
牢の類ではなくちゃんと扉も鍵もあるどこかの安ホテルという部屋で意外ではあったが安心した
どうも他の一般受刑者は部屋等無く、雑居らしい、たしかにこれは「異常な高待遇」であった





翌日昼に再びアルバの所に行き拾った少年の話を聞く事にした


少年は見た目からして若い年齢は15歳、銀の髪と青い目、ここにいるような連中とは明らかに違う
それなりの家の出の人間の礼儀や品格があった。それが一体何故こんなところに居るのか?
誰もが疑問に思う事だ

だが、実際聞いてみると、その理由は驚くほど単純でくだらないものだった

彼はクロスランド南方の国の名家の出身で父親は国の重臣だった
ベルフの占領政策の際反発して斬られ、目の前で斬られた父親の仇とベルフの軍指揮官に剣を向けた為逮捕、拘束される

ただ「それだけ」の事だった

「無茶苦茶だなぁ‥」思わずアルバが呟いた

「しかしこんな所に送ってどうするつもりなのか」

「いやー‥そりゃかませ犬?にはなるんじゃね?」

「酷い話だな」


少年はずっと俯いたままだった

「で、君はどうするんだ?」

「どうもこうも‥闘技に出なければ処刑なんでしょ?‥」

「ま、そりゃそうだな」

ライナは考えて黙り込んだが

「分かっているなら戦うだけだろうな。拒否して死にたいなら別だが‥」そう言った

だが少年は

「お姉さんは昨日の見てたでしょ‥僕は剣なんて‥」

「なら、脱走でもするか?ま、無理だろうが」

また、少年は黙りこくる、しかしライナは

「君、名は?」

え?という感じで彼は答えた

「カミュエル=エルステル‥」

「私は脱走の手伝いは出来ん。が、剣なら教えられる」

「え?!」

「一緒に来いカミュ、私が剣を教えてやる」

「‥」

少年はしばらく考えていたようだ。

だが選択肢等初めから二つしかないのだ

進むか諦めるか

「やります!」 彼はそう言って進む事を選らんだ

ライナは手を差し伸べ自らの名を明かした

「私はライナ=ブランシュ。寝る時間以外は剣を振らせるぞ、覚悟しろ」

「はい!」とその手をカミュは握った



「剣を教えてやる」は早速その日から始まった、基本的な構え、持ち方、振り方、守り方
本当に基礎の基礎から始めた。


無論彼のケガもあるので余計な事をやらせる訳にもいかないのもあるが
彼女の見る所、まずカミュには「剣武」の知識も基礎も何も無かったからだ
それだけに正道の技を教える事が早道であると考えた
それ自体、ライナが始めて剣を習った団長の時と同じやり方だった

「正道や王道に最終的に勝る物は無い、突飛な物は虚を突くには有効だが、それが通じなければそれまでの相手だ」

これがかつて傭兵団の団長フリットに自分が習った時に言われた言葉だった

が、それは間違いでは無い、最終的には。

現に「それら基礎を究極まで極めた」大陸屈指の剣士
ジェイド=ホロウッドも同じく最終的な形は「ソレ」に成っているのだ




ただ、基本の繰り返しだった
けど、それはずっと続けた日が暮れても

「おいおい、まだやらせてるのか?」とアルバが覗きに来て言ったが

それを黙ってみているだけのライナは

「彼が止めないから私も止めない、それだけだ」

「呆れた奴だな‥」

「自分にはもうこれしかない‥そういう思いなのさ」

そうしてカミュが剣を振れなくなったのは21時を過ぎた頃だ、ライナはカミュを抱き起こし
無理やり飯を食わせて自分の部屋に運んでベットに寝かせた。
それがただ只管一週間過ぎた

二週目には彼にロングソードを持たせて、3週目には両手剣

という具合に同じ事の繰り返しだった。が


4週目にはそれを止めさせ休ませる
そして残りの日数はライナ自らとの立ち合いをさせる

彼が闘技で戦うに、最も足りないのは「剣士」との戦いの経験でもある
が、その相手がライナと成れば格好の相手だろう
無論相手になるレベル差で無く、ただ只管軽くあしらわれるだけだが
そこで彼女は「あの資質」を解放して対峙した

「スラクトキャバリティターの資質」
その肌に突き刺さる冷たさ、見る者全てを硬直させる恐怖、殺気を超える殺意、それをカミュに叩き付ける

無論ライナからは一切仕掛けない、が、カミュも仕掛けられない、それほどの強烈な
殺意と恐怖なのだ

剣は振れば何れは強くなる、が事、真剣を使った実戦となるとそうはいかない
相手への恐怖、殺してしまうかも知れない躊躇、心で負けてはまず剣を合わせるどうこうの話ではないのだ

それの最高の物を最初から叩き付けて「慣らせた」のだ

「どうした?睨み合ってるだけでは相手を倒せんぞ?」

が、カミュは声を挙げる事すら出来ない、当然だろう、手を出した瞬間首を刎ねられる想像しか
沸かない程の殺意だ。

しかしそれも3日目に成ると慣れてくる

「こちらは防御しかしないぞ?それでも怖いか?」

そうライナに言われて幾度かはカミュは剣を振り上げ切りかかる、軽く弾かれてそれまでだが
恐怖心には呑まれなくなった



そうして最初の闘技の日を迎えた







闘技場は盛況だったなにしろ「あのライナ=ブランシュが出る」のだから
いつもの2倍は客が入り客席も立ち見な程だ
闘技場はまさにコロシアムと言った様相で、丸く囲う様に客席があり、
中心一段下に戦う石作りの壁と場所
そこで賭けと殺し合いを観戦する仕様である

かなりの広さがあり、50メートル四方のリング
客席は更に3倍以上の広さがある

武器も鎧も実戦で使う物が用意され、置きっ放し、ここでも「自由に使え」だった



ただ、ライナの試合のオッズは9対1でほぼ賭けには成らなかった上に

彼女の試合は恐ろしくあっさり終わった

開始直後ライナは斬りつけて来た相手剣士の腕を浅く斬り武器を落とさせ、
喉元に剣を突きつけて降参させた

僅か三秒の事だ

そこまであっさりした試合でも「噂に違わぬ強さ」と客は喜んだ
そもそも闘技場に出て来る選手は大抵素人か元は犯罪者
殆どが泥臭いか凄惨な殺し合いでしかなく

ライナの様式美の様な名人技の試合が見れるだけでも
「いつもと違った趣向」で斬新でもあったのだ
それ故、それを喜んだ、更に言えば、賭けのオッズなどベルフ側も期待していなかった
「あのエリザベート」と戦える相手と誰がいい試合になると思うだろうか

客の入りは好調な事を見ても明らかに彼女の役目は「客引きパンダ」なのだ

それが分かるアルバもライナも
試合後

「もう少し遊んで客を楽しませてやれよ」

「次からそうするわ‥」と交わした


問題且つ心配なのはカミュの方だ
真剣を持った殺し合いが可能なのか。まともに剣を振って戦えるのか

だが、その初戦は様々な面で幸運と言えた

なんら躊躇も無く7合打ち合って相手の胸に剣を突き刺し殺した、斬った後はしばらく震えていたが兎も角勝った

まず、相手が初日にカミュをリンチにかけていた連中の1人であった事
ハッキリ言って弱い。また、恨みや怒りが少なからずあったのでカミュに躊躇いが無かった点
更に言えばライナの手合わせからすれば
小動物を相手にするレベルに容易い相手だろう、それら全てが絡んだ結果だった

ただ、相手は絶命したのと、カケのオッズが7対3で比較的波乱試合ではあったか
どう見てもどこかの「いいとこのぼっちゃん」のカミュが勝つとは思わなかったのだろう

彼は控え室に戻ってしばらく冷や汗をかいて俯いて震えていた

「死んだのは結果でしかない、強くなればライナみたいな名人芸も出来るさ」とアルバは慰めた

「いざ‥始まると、必死でした‥、余裕も無くて」

言われた彼にもそれは分かっていた、自分が中途半端な強さだから殺したのだと

ライナはカミュの隣に座って彼の震える手を握った

「なら強くなればいい、私より」

「出来ますかね、僕に」

「進むなら何時かな」

「はい‥」と無意識に彼の握る手も強くなった

兎角彼は「一ヶ月の猶予」を得たのだ、それは違い無い










実際、彼の才能はあった、特にこれはと言うモノが3つあった

何より努力する才能だ。「口では簡単に努力」等と言うがそれを行い続けるのは難しい
寝てもさめてもそれを繰り返す等誰にでも出来る事ではない

2つが、物事に適応する能力が彼は、ずば抜けていた

得た一ヶ月の間に彼は最初と同じように腕が上がらなくなるまで剣を振り続けた
そしてライナとの立ち合いもまともに打ち合うようになった
この異常な環境にも容易に馴染んで、それが「元々あった環境」の様に過ごすようになる


剣の才能。があったかと言えば並よりはあるかもしれないが、極めて優れた
とは言えなかったかもしれない

そこまでしても立ち合いでライナを驚かせる物は無かった


そして3つが。彼の見た目に反した体の強さだ

彼は段々重い剣を使えるようになった
ミドルからロングソードへ、そこから厚い幅の両手剣ブロードソードに
彼の体が成れと肉体の元々の強さからそれを可能にした

どの武器を持っても同じ速さで振れる程だった


2戦目、3戦目も順調に勝った。


この頃になると両手剣を片手で振るようになり、皆を驚かせた
一方で名が上がると以前の様に絡まれる事は無い

特にライナの場合「あの」ライナ=ブランシュなのか?!と囚人達の間でも話題になる
彼女が施設内を歩くと人が自然と分かれる様になる


「思いの他順調だな」アルバはそう言ってカミュの適正に驚いたが

「正直ラッキーはある、これといった相手とぶつからないからな」

ライナも同意だったがまだ油断する様な段階ではないと示した


「で、このままの育成なのかね」

「彼に色々やらせるのは良くない、あくまで正道を行くべきだ」

「最終的にはそれが一番乱れが無く攻守に安定感は出るな、が」

「いや、もう個性は出てきている。実際重い武器を軽々振り回せるように」

「武器に合わせたスタイルに自然に変わる、か?」

「大型剣を振り回すにはどれほど腕力があろうと腕だけで振れるわけじゃない
それに合わせた体捌きに少しづつ変わってはいる」

「それが個性か」

「そうよ、あくまでカミュは基本に忠実だ、が、それでありながらより自分にとって
効率的な動きがミックスされていく」

「強くなりそうだなぁ」

「でしょうね」




半年を過ぎた頃、依然ライナには及ばぬが、彼の相手をするのが彼女自身大変になってくる
問題は力量差の縮まり以上に
彼が大型剣を普通の剣の様に使う事にある。

ヘタな受けをするとこっちの武器が壊れかねないのと腕ごと持っていかれる程威力がある事だ
したがって「避け」「流し」を徹底して対応しなくてはならず割合神経を使う戦いが多くなる為だ
早めに且つギリギリでかわして反撃で対応の連続だった




10戦目

ライナは相変わらずの余裕の試合運びで勝ったが

カミュはそうはいかなかった余裕を持つ程の腕でも技術でもない
が、彼はこの試合で幅広の巨大剣を横に向けて「盾」に使う事を覚えた
しかもそこから剣を弾き反撃に連動させる所謂「個性」が自然と発揮されるようになったのだ


二人の立ち合いもカミュはライナのそのスピードと無駄の無さに対応する為工夫を重ねた
体のうねりを最小にし、剣の振りも小さくする、斬りの目標付近だけ力を入れ
剣速を維持して防御への配分もする
段々それが出来る様になり、「まともな剣の交し合い」でも打ち合いが続くようになっていた

相手が強大であるだけに、自己の欠点を把握し易かった

「フ‥」とライナは立ち合いが終わった後笑った

「どうしたんです?」とカミュそれが分からず思わず聞いた


「強くなった、カミュは」

「多少は着いて行ける様には‥なったような」

「この期間でこれ程適応したんだ。成った様な、ではないんだがな」

「いえ、でもまだまだです。全然まだ、カスリもしない」

その言い草が実に彼らしいとも思った
この時点で彼は既に、ライナ自身の経験から見た中の武芸者でも
上位に位置付けられる程にあった

彼は自らを休める事を知らなかった、あくまで同じ事を一つ一つの技を極める努力を続けた




15戦勝った頃

カミュはもう大丈夫だろうと。ライナはライナ自身の事を始める事にした
何しろカミュはほうっておいても決して自分に甘い事はしなかったからだ

その日の夜ライナはカミュに自分のこれまでの経緯とすべき事を話した

「私は私の戻るべき場所に戻る、ここにずっと居る訳にはいかないからね」

「その傭兵団に戻るという事ですか」

「ああ、私はこれから、残り1年満たないが、毎週闘技に出る。先にいかせてもらう」

「なら、僕も一緒に行きます、同期ですから、同じペースで勝てば一緒に50勝出来るでしょう?」

そう返されたのだ

まさか「一緒に行く」といわれると思わず戸惑ったが
彼は本気だった、だから

「着いて来るのは構わんが、待ってはやらないぞ?」

「いえ、足を引っ張るつもりはありません、ただ、僕が着いていくだけです」

そう言われては一言もなかった


そこからの二人は今まで以上に自己の修練に赴く


寝ても覚めても只管戦い

毎週闘技、ライナとカミュの手合わせ、自己鍛錬の繰り返しだった

八ヶ月を過ぎた頃
二人の手合わせも手合わせのレベルでは無くなっていた

カミュがライナに勝つ事は今だ無かったが、彼女自身本気で対応しないと負ける程の
力を見せ始めていた
それはライナ自身にも嬉しく有難い事だった

自分自身と全力で戦える相手というのは自己を高めるのに極めて重要な事だからだ
そしてカミュにとっても常に前に壁があるのは重要な事だった
常に目標が目の前にあるという事だ

お互いボロボロになるまで戦ってただ食って寝るだけ
もうそれしかないかのように








いよいよ山の頂が、勝利数的に見え始めた頃

ベルフ本国で細事があった



送られてきた報告書を自分の部屋で受け取ったアリオスは目を通して一考していた

お付きのキョウカは彼の決断を黙って待った

そうしてようやく彼は口を開いた


「あの所長‥どうもよからぬ事を企んでいるようですね‥」

「それは」

と返した所で、アリオスは報告書をキョウカにも見せた

それを読んだキョウカも流石に眉をひそめた


「こんな物持ち出してどうするつもりでしょうか‥?」

「何‥単純な事ですよ‥50勝者を出さないつもりなんでしょうね」

「正気ですか‥」

「ついでに言うと、色々手を尽くしてあそこから出る者を潰してきたみたいですよ
本来の約束事、金を出して闘技者を買うというのも一件も無いようですし」

「腐ってますね‥」

「結果国を利すれば何でもいいという話では無いんですがねぇ‥」

「しかし、アリオス様の調査が功を相しましたね」

「ええまあ、ですが、ライナさんとイリアさんが居なければこのまま知らないままでしたね」

「たしかに」

「イリアさんにはまだ内緒ですよ?」

「はい」

アリオスはそのまま部屋の隅にある鍵付きクローゼットに向かいそれを開ける

「それと、キョウカさん3つ頼まれてくれませんか?」

「はい」






同日の夕刻、ライナとカミュは宿舎一階の広い談話室でテーブルに対面して座り
普通に食事を取った。食べ物は料理と言えるレベルの物ではなく
保存食だが

そこにアルバが加わり3人になった

「よ、お前ら、不味そうに食ってんな」

「正直腹が満たされればどうでもいいわ」

「なんか荒んでるな色々」

とアルバは言ってテーブルに酒を置いた。


「やるか?飯くらい楽しんで食え」

「安くて不味い酒って言ってなかったかしら?前」

「他に無いんだからしょうがないだろ。それに前祝いだな」

「何の?」

「来週にはここ出るだろ。もう顔を合わせる機会もそうなかろう」

「呑んだことないんだけど‥」

「まじかよ。もう19だろ」

アルバはそう言いつつ、コップに軽く酒を注いで2つ差し出した

ライナとカミュは訝しげな顔で酒に口を付けるが即座離して

「呑めなくはないけど不味いわね」

「しかも臭いですけどこれ‥」

二人は不満気だ、が、アルバだけはそれを見て笑った

「ブッ、ハハハお前ら子供かよ」

「子供ですけど‥」

「無礼な奴だ」

「ハハハ」

なんだかそれで妙に和んでしまった


「‥、ところでアルバさんはここから出ないんですか?」

「結局月1闘技を貫いたわね。一緒に出るなら就職先を斡旋したのにね」

「ん?まあ、いいんだよ、どうせ外出てもやる事は無いんだし」

「今26勝?」

「27だ」

「もったいないわね」

「そうなんだが、後から入ってくる奴もどんどん増えるし、そいつら置いてく事は出来んさ」

「そっか」

「ま、ギリギリまで粘るが、外でた時はよろしくな、とは言え外の情報があんま無いからどうなってるのか分からんが」

「そう言われてみればそうですね」

「ベルフが安定して勝ってるのは事実でしょうね」

「ここが存続してるうちは戦争は終わってないって事だな」

「そういう事」




ライナとカミュはいよいよ最後の闘技を迎えようとしていた、その日の夜は
気が高ぶって中々寝られなかった

ライナの部屋で雑魚寝していたが、二人共、特に何か話す訳でもなく黙っていた

ただ、ライナには別の懸念もあった故もある



翌朝、闘技の日を迎え
囚人達は闘技場に向かう

二人も装備を整え出番を待った、が
その日は二人同時に同じ控え室に待たされた

長年のカンかライナにはそれが「何か仕掛けてくるのか?」と警戒したが
二人同時にそのままコロシアムの観客の前に出された

そこに所長が出てきて一際高い観戦場所から告知する



「皆さん静粛に」

「これから最強の二人、ライナ=ブランシュとカミュエル=エルステルの最後の試合を開始する」


そこまで聞いてライナは「やはりか」と思ったが
次の一言でそれは外れた事を知る


「故に、普通の相手では皆さんも面白くない。そこで私は外から招いた最強の戦士を
二人にぶつけ、最高に相応しい最後の戦いと締めくくりたいと思います」

「どういうことだ?」と客席がザワつく

その意見にはライナ達も同意だ、が
恐らく‥


「この闘技場始まって以来の名剣士二人にはそれに相応しい戦士を用意した、それを
最強の二人に協力して戦って貰おうという訳です。面白い趣向ではありませんか?」

「今回の賭けは急な事ですので。しばし時間を置き、賭けの時間を作ります」

「まずは、そこの二人」

「そして相手は対面に居ります最強戦士、紹介します「人造魔人ドルド」」

「え?」と全員がそれに注目する


本来、大型の扉から登場する対戦相手だが、今回だけ事情が違う

巨大な檻に入れられた巨大な人、それがそのまま置かれる

「あれが‥」「始めてみた‥」

一斉に声が挙がる

がライナは「だろうな‥」と呟いた。意外ではあった、が、この二人に対するには
並大抵の相手では勤まらない
故にそれだけの相手が用意されるのだろう
しかしそれが人外の者とは恐れ入る

体高は2メートル半か。右腕を覆うように、ガントレットにも見えるが体の一部と癒着した
爪の付いた腕
体のあちこちに張り付いた鉄の鱗
人に近い顔をしているがそれとは違う半端な容姿

「ライナさん‥」と、カミュは流石に驚いて呟いた

ライナはカミュの肩に手を置いて言った

「どうやら、所長は生きて私達をここから出さないつもりらしいね」と

「でも、やるしかない‥」彼は前向きだった、いや戦うしかないのだ

「だなぁ」それにライナも返し覚悟を決めた

「君と戦わせて、どちらかは出してやる、と言うのかと思ったが、これは予想外だったな」

「どうします?‥」

「やってみないと分からんな。初めての事だ、だが」

「はい」

「あれは殻も相当固く、剣も通るか分からん、が、でかいだけに動きは鈍いハズ、まずは私が試す」

「しかしそれは‥」

「いや、どこが通るか見つければ、殺せなくは無いはず。それに君の剣なら通るかもしれん」

「確かに‥」

そう、カミュは太く幅の厚い大型剣を使っている、易々と折れる武器ではない
この様な状況でもあくまで冷静だった
勝ちを拾うしか生き残る道は無いのだ、だからどうすべきかを考えた


檻が開けられ、のそのそと人造魔人ドルドが出て来る、開けた兵士はさっさと扉の向こうに逃げる

意外な事にオッズは5対5だった







ライナとカミュは構えた。

まず、ライナは大きく深呼吸して目を閉じる、次に開かれた眼は「あの眼」だった

「スラクトキャバリティターの資質」闘技ではもはや使う必要も無かった程ライナは強かった
が、こうなって出し惜しみは無い、一言だけライナはカミュに

「この状態が極まると自制が利かん、後は自分の判断で動け‥」それだけ言って前に駆けた


まるで影が伸びる様にドルドに飛び掛った、が
飛んだりはしない、あくまで低く地面を這う様に、それでいて驚異的な速さで

人造魔人はたしかに「動きはのろい」駆けたライナの姿を見ていない

ライナは足元に滑り込み先ず足首をすれ違い様に斬った

「ガ!」とおおよそ人を生物を斬ったとは思えない打撃音が響く

「チッ!やはり通らんか」そのまま背後をぐるりと回る様に駆け4度足元に剣撃を浴びせ、離れる

人造間人は斬られた足を見たが意に介さない様で視線だけでチラリと見ただけだった

が、丸っきり効果が無い訳では無く、いくつか、かすり傷のような裂傷はついた

やれなくはない!そう思ったのかカミュは正面から魔人の前に立ち立ち向かう

その爪とも手ともつかない右手でカミュを払う、カミュはそれを身を屈めてかわす
返す手で爪を払う、それにカミュは渾身の剣撃を合わせて返す

それは相手の固い部分らしく「ガン!」と音を立てて両者弾かれ、離れる
もはやカミュも歴戦の勇士という戦いの経験を積んでいる、それで怯む様な心は持っていない
立て続けにソードを打ち付ける

ライナはそれに合わせ挟み込むように、逆方向から「斬れる場所」を探して走りながら剣を浴びせていく

足首、膝周り、腿、腰、胸、背中とあらゆる部分を下から上に雷撃の様な速さと勢いで

それがうっとおしかったのか人造魔人は余った左手でライナを振り払うように一撃を食らわすが
まるで影をすり抜ける様にライナはかわし、同時にその手にすら斬りつけて離れた


あまりの出来事に客席から感嘆の溜息が挙がる

が、その声を感受する耳はもう持っていなかった。既にライナは集中力の極まりで
そんな物は耳に入らない

一方カミュは全く逆の戦いだ、武器がそれを可能にしたというのもあるが
人造魔人の右手の攻撃を正面から受け、弾き、斬り返す

相手の一撃は強烈な一撃だが、斜めに剣を返しながら微妙に力を受け流せば十分防げる
圧倒的な「敵」という認識だったが、この二人ならやれる、そう確信できるだけの
強さが二人にはあった

が、反撃を意に反さない「硬さ」が向こうにはある

ずっとこれを続けても事態は好転しない、何れ体力が尽きる。それはライナ自身にもあった
だから賭けに出た。リスクも勿論承知で

そう、届かない頭への攻撃、ライナは飛び上がりすり抜け様に頚動脈を斬る
それは通った、ホースの様な首の血管が僅かに切れて、血が吹く

人造魔人はその一撃を食らわせてくれたライナを腕で振り払う

空中に居る彼女はそれを避けられない、無論承知の上だ、だから自分の剣を
相手の腕の一撃と体の間に挟みこみ「盾」に利用して且つ足でその腕を蹴って後ろに
無理やり跳んだ
これで、可能な限りダメージを減らす「つもり」だった



その体は軽く7,8メートル吹き飛ばされた転がった

「くは!」と思わず声が挙がる、どうにか体は動く、咄嗟に立ち上がるが致命的な事態に気づく

彼女の剣が折れたのだ

ライナのそれを見て人造魔人はライナに向かうが、いち早く二人の間に
カミュが割り込んでけん制する

「ライナさん!」

「カミュ!見たか?!「首」に通るぞ!」とほぼ同時に叫ぶ

失った分の物を得た分の悪い賭けは逃れた

「分かってます!」

カミュは人造魔人に立ち向かうが、向こうは大きく、両手が武器と盾だ、
それを防ぐだけで精一杯だった
まして首を狙って斬り込む等相当の奇跡が必要だ

「このままでは‥」

ライナには戦う武器が無い、折れた剣の残り半分でも斬れるか?と思い
それを実行しようと立ち上がる。体は痛むがもう何度かは駆けれるだけの力はある



そこで彼女の上方、客席最前から声が挙がる

「ライナ=ブランシュ!」



それに反応して僅かに見る、それだけでも十分確認出来た

「貴女は!?‥たしかアリオスの‥」

そこに居た、声を掛けたのはアリオスのお付きの女性士官キョウカだった

彼女は自らの腰に差した剣を鞘ごと抜いて投げて寄越した

「それなら斬れる!!使え!」

確認してる時間は無かった、即座それを掴み鞘から抜き向き直る

普通の剣。だが柄と刃に宝玉が2個填め込まれた宝剣

それを携え、一気に駆ける、これまで最も早く最後の力を全て出して


人造魔人と鍔迫り合いするカミュの横をすり抜け

全力で前進しながら武器をぶつけ壊さん程に腕を振るって駆け抜けながら人造魔人の体を支える左足を斬った


その早く強烈な一撃は魔人の足首を半分程も切り裂いた

「奴」が支えを失い左に大きく崩れる

「今だ!」と声を荒げるライナ

千載一遇のチャンスにライナが開けた活路、「首の傷」にカミュは渾身の一撃を見舞う

鈍い音がしたがその一撃は通った

両断するほどでは無かったが魔人の首の中ほどまで斬り込んだ


大量の血が噴出し「ググ‥」と声を挙げてゆっくり倒れる
傷口を左手で押さえたがそれでケガが塞がる訳ではない。
生物の無思考の咄嗟の行動だった


ズン、と大きな音とともに人造魔人は崩れ落ちた、そしてそれは二度と動かなかった

完全勝利だった



「やった‥」

「倒した?!‥」

ライナとカミュは呟くように無意識に言った


20秒程してベルフの兵が出てきてそれを確認して首を左右に数回振った

「死んでいます」と



これでライナとカミュの勝利がようやく確定され
同時に観衆がドッと沸いた

「見事だ!これで二人共ここを出る事も確定された!」そう所長がわざとらしく言ったが
もうそんな事はどうでも良かった


「ただ、終わった」それしか感想が無く、二人はその場にへたり込んだ

しばらく歓声は鳴り止まなかった、当然だろう、生きている間にこんな戦いは
二度お目にかかれ無いのだから




そこで、ライナは思い出し、客席を見た

「あ‥武器を‥」そう思って武器を持ち上げたが、それを返すべき相手はもうどこにも居なかった

「この武器はいったい‥」

それは黒と白の揺らめく輝きを放つ宝玉「堅牢」と「切断」の効果付いた
エンチャント武器ロバストスカルプであった

一連の事態を聞いたアリオスがキョウカに託しこのギリギリのタイミングに間に合わせたライナへの贈り物である



兎も角、これで全て終わったのだ
所長は歓迎していないだろうが、聴衆の面前で勝って見せたのだ、もはや
「出さない」とは言えないだろう




其の夜、アルバ達に祝杯を受け夜は更けていった






翌日、二人は即座開放という運びでは無く

午後4時、輸送船に乗せられ大陸最南東の森の停泊所に下ろされた、というより誰も居ない深い森の桟橋のような場所だ

「せこい嫌がらせか」とも思ったが、この場所はベルフの領土と他国の領土の境界線にあり
ここがギリギリの場所という説明を受けて一応は納得したが


二人はその森の道に出され、周囲をベルフ兵20人程に囲まれて荷物と武器を渡される
所長は褒美と路銀として二人に金10を渡し、ここでようやく開放された

「森は深いが古い道が整備されている、距離はあるが、それに沿って行けば南東街道に出る」と説明を受け
ライナとカミュは歩き出した


ここまで来たら当然まだ、何か仕掛けてくるのだろうとライナは警戒したが

一時間程歩いた所でそれが現実となる。ただ悪い方向ではなかったが



夕方で薄暗くなった道、森の中から静かに声をかけられた

「ライナ」と 二人は声をかけた主を見るがライナはその相手に見覚えがあった

「久しぶりだな‥」そう声をかけ、現れたのはクイックであった

思わず「クイック!」と大きな声で答えた

「知り合いですか?」カミュは聞き構えを解く

「ああ、例の傭兵団に居た頃の同僚だよ」

「そうでしたか‥」


クイックはフッと僅かに笑って見せた

「再会を喜びたい所だが、あまり時間の余裕が無いのでね、用件だけ伝えるぞ」

「ええ、分かった」


「例の所長はやはりお前達を生きたままにするつもりは無いらしい、夜になった所で馬を出しお前達に追撃をかけるだろう」

「‥やはり、か‥」

「ああ、どうやら同種の方法で五十勝者を密かに殺していたそうだ。あの人造魔人を持ち出した事でもそれは分かっているだろうが」

「それで?」

「俺は奴らの「掃除」の手伝いを依頼された、これから道を戻り奴等を片付ける
お前達二人はこのまま、道を進め、街道に出たら南西側に向かいベルフの敵対国方面へ逃れろ」

「掃除、て、誰に?、クイックは団はどうした?」

「お前と別れた後抜けたよ。その後お前とイリアの行方を追っていた、俺の責任でもあるからな。」

「そうだったのか‥それでイリアは」

「その辺はお前のが詳しかろう、今だアリオスと共にある、俺はそこでベルフ本国に侵入した際
アリオスと話した、そこであくまでフリーな立場で仕事請けてくれないかと乞われてな」

「じゃあその掃除もアリオスの?」

「そうだ」

「何故?‥一応ベルフ国同士の味方では」

「あの島はアリオスの発案だ。お前が島に渡った後追調査し、結果、所長が勝手な事を繰り返していたのを知り
見逃せる事態では無いと考え、所長の処分を決め、裏で動いた」

「なら、私も手伝うわ、あの所長は私も見逃せない」

「その必要は無い、既にアリオスの「女人隊」も策動している、お前らは
余計な事に関わるべきでは無い」

「そうか‥分かったよ」

「この先に馬を用意した、この道は長いそれを使え」

「色々すまない」

「俺は仕事をこなしているだけ、さ」

クイックは背を向けて歩き出す、が、そこであのことを思い出した

「待って!、これ、剣を」と闘技場であの時受け取ったエンチャント武器を返そうとした、が

「祝い、だ、そうだ、貰っておけ」

「アリオスから?」

「どうせ、自分が持ってても使わないから。だ、そうだ」

「そう‥」

「まあ、大事に扱えよ、金二千は下らん物だそうだ」

「ええ?!」

「ハハハ。お前でもそんな顔するんだな。ま、そういう訳だからとっとけ、またな」

今度こそクイックは走り

「また、どこかで」

「どこかで」 ライナとクイックとだけ交わし別れた。



「何故アリオスがここまで」とも思ったがそれを聞く時間も無さそうだ、何れそれは分かる事だろうか


兎も角今はこの森を抜け安全を確保する事が優先だった、追っ手がかかるなら尚更だ、
故、二人は進む


後日の話ではあるが。罪人島の所長は部下と共にこの森で姿を消し、以降の行方は知れず
即日、新しい所長が着任する事となった



森を抜けると大きな街道に出る、時間は既に日付の変わる頃だ
街道はそこから北と南西に伸びる、馬を走らせるわけにもいかないのでゆっくり移動した

着いた先は巨大な砦、フラウベルトの庇護を受けた自治領主の街でアベル
時間は既に昼近かった


ライナは砦の門の前に行き、衛兵と思わしき門番に
自分達はベルフから逃れてきた者だと語り保護を求めた。
向こうも流石に怪しんだが、武器を自ら渡し、敵意の無い事を示して納得させる

一時軟禁と言う形になり、そのまま兵の宿舎の一室に通されて食事と休息を受けた
正直相当疲労していたのでむしろそれは有難いくらいだった

ただ、ゆっくり休息する暇も無く夕方前にはそこを出され砦の作戦室の様な場所に通されたが

そこには意外すぎる人物が彼女を出迎えた、お互いの姿を見てライナ自身も驚いた

「ライナ!」

「ロック!」と同時に言った

そう出迎えたのは傭兵団に居た頃の盟友ロックだった


二人は大きなテーブルを囲んで出されたコーヒーを啜って話した

「ずいぶん髪が伸びましたね、その方が美しい」

「貴方は変わらないわね、相変わらず少年ぽいわ」

思わず二人共笑ってしまった。

「もう、会えないかと思ってましたよ」

「私もよ」

「それで、何故このような所に?」


そうロックが言いお互いの経緯を話す


「なるほど、それでこの方面に」

「そっちは変わった事は?」

「ええ、結局ここに残ったあの時のメンバーは僕とバレンティアさんだけです。
団は団の形を残していますが、実質我々はフラウベルトの指揮官や将の様な立場に
一応見た目の区別をする為にこういう制服を着てますけどね」

「なんだか変な感じね‥」


それは白地に緑のラインの軍服だ、団の名前は有益であるし、フラウベルトには
これといった将が少ない
故に、吸収合併の様な形に収まってフラウベルトの軍の一部と成っているらしい


「ただ、団の方針、少数による特化部隊というのはベルフの百人騎馬と同じく有効であるので
個別に指揮権はありますね」

「フリット団長が責任者に?」

「はい、あの頃と変わっていません、上にフラウベルトの王族が付くと言うだけですね。ところで‥」

「うん?」

「ライナさんは団に戻ってくれるのですか?」

「ええ、其の為に戻ってきたわ」

それを聞いてロックは明るい表情を見せて言った

「それは良かった、貴女は敵に回したくありませんからね」

「そんなつもりは無いわよ、私にとってはここが家だもの」

「そうですか、そうですね」

「ところで、戦局は?」

「ええ、と、フラウベルトの新王は、ま、聖女と呼ばれてますが、
彼女の加護で周辺国への援護が出され
今のところは、ここと、北に2国の所でベルフの進軍は止まっています
ずっとそのまま膠着状態ですね」

「優秀な人みたいね」

「と、言うより、お人よしというか。兎角周辺国への援助と援軍、庇護を働きかけ、結果
ベルフの侵攻を防ぎとめ、膠着状態になっているだけですね」

「ところで」と、ロックは前置きした後


「ライナさんの連れてきた、相方?の少年はどうします」

「彼も家族を失った子よ、恐らく残ってくれると思うわ」

「そうですか、とりあえず、其の後の事は何れ、でしょうか」

「ええ、まず、ちょっと休みたいわね」

「わかりました、つい嬉しくて、配慮に欠けてましたね」

「それは私も同じよ気にしないで」

「どこかまともな宿を取っておきます」

「うん、それと、クイックの事だけど」

「ああ、知ってますよ、一度自分とイリアさんの現状を手紙で報告してきましたら」

「そっか」

「彼には彼の思惑あって事でしょう、実にらしいと言えばらしいですが」

「その事を知ってるのは?」

「僕とバレンティアさんだけです。あの時のメンバーには知らせておこうと思ったんでしょう」

「なら、私も秘密にした方がいいかしらね」

「でしょうね、まあ、ただ特定の誰かに力貸している、という訳でもないようですし。
聞かれなければ答える必要は無い、という程度でしょうか」

「妥当ね」


そこでこの会談は一時終わった

夜には街の宿を取ってもらいカミュと共にそこに泊まる事になる
普通のまともな宿だけに、ウン年ぶりにまともな料理も出てきてそれを平らげた
そもそも、暖かい食事すら久々だ

その場でライナは前後の事情とこれからの事を話した

「そういう訳で私は団、或いはフラウベルトに復帰という事になるが、君も所属してはどうか?」

「そうですね、僕も帰る場所がある訳では無いので‥」

「じゃ、決まりだな。と、言っても戦う事になるんだが‥」

「いえ、今更戦いが嫌だ等と言いませんよ。もうそれしかないんですし」

「そっか‥」

ここでライナは、本当にそれでいいのか?とも思った
そもそも、別な生き方があっても良いのではないか、そういう思いだ
しかし、カミュはそれを見抜いていたかのように

「別の道、はあるかも知れません、けど、それも戦争が終わらないと難しいでしょう
何をするにしても、その後の事はその後考えればいいと思いますよ」

「うん‥そうなんだよな」

「それに、自分達の様な不幸な目に合う人を、戦う事で減らせるなら
それは優先していいと思います
まして、僕はライナさん程じゃないですけど「力」があるわけだし」

「まいったなぁ‥先に全部言われちゃったよ」

「ライナさんって隠し事が出来ないタイプですね」

「かもね‥」


そこにロックが現れる

「やあ、どうもお二人さん」

「どうも」

「あんた暇なの?」

「酷いなぁ、まあ、そうなんですけど、ていうか口悪くなってません?ライナさん」

「あんな環境に居ればそうもなるわね」

「ハハ、微妙に笑えませんね」

「ところでロック、何でここに?」

「はい?」

「ここってフラウベルトの領土じゃないでしょう」

「ああ、自治区ですね。フラウベルトの庇護を受けていますから、まあ、
僕は出向というか援軍というか」

「なるほど、けど援軍って事は戦闘があるのかしら?」

「いや、睨み合いだけですね、実質的な戦争はまだ一度も行われていません、精精戦闘
小競り合い程度です」

「なんか微妙な場所ね」

「ですが、砦街ですからね、放置も出来ないんですよね防壁として優秀ですし
、一応ベルフとの隣接地ですし、それで僕がここに」

「ふーん」

「ところでお話は決まりました?彼の、えーと‥」

「カミュですよろしく」

「どうもロックです」

「カミュも団に入るわ、協力もやぶさかではない、という事よ」

「それはそれは、歓迎しますよ」

「ど、どうも」

「まあ、実際の事はフラウベルト本国に行ってください、団長はそっちに居られますので
後で馬を用意しましょう。と言っても10日程で着きますけど」

「分かったわ」



「では、僕はこれで、ゆっくり休んでください」



今までの駈け足過ぎる生活とただ剣だけを振っていただけの一日を取り戻すかのように
二人は眠った。が、あくまでそれは休息に過ぎないのだろうか

10日後

二人は用意された馬に乗り再び進み出す、目的地は大陸最南の神聖国フラウベルト
大陸南部でおそらく単独でベルフと戦える唯一の国であろう場所に






一方ベルフ領土となったクロスランド周辺地域で内治を任されていた
アリオスは相変わらずそこでも事務仕事に追われていた

そこで「罪人島」の一連の報告を受け取っていた
相変わらずの安ホテル司令室で紙の山に埋もれての出来事だ


「ふむ‥上手く行ったようですね」

「ハ‥」報告を上げたキョウカは短く答えた


「いや、ほんとにご苦労様でした。何もかも任せてしまって‥」

「いえ、それが仕事ですから」

「これは伝えてもいいでしょう、イリアさんを」

「ハイ」

と同時に二人は立った
アリオスは奥の自室に、キョウカは別部屋で事務に当たるイリアの所に



アリオスの部屋で、イリアは今回の罪人島での報告を受ける

「アリオスさんの言う通りでしたね」

「でしょ?」

「ほんとにライナは凄いわ‥」

「ええ」

「でも、色々手を尽くしてくれたみたいで、ありがとうございます」

「身内の処断半々ですから、礼には及びませんよ」

「でもいいんですか?、一応お味方でしょう」

「ああ、所長の事ですか?。‥まあ、一罰百戒というのもありましてね、そう言った意味でも放置できませんし」

「なるほど」

「ただ利益に成れば良いという勘違いは国を損ないますから。それはまあ何にでも言えますけど」

「‥」

「意外ですか?」

「いいえ、私はアリオスさんを知ってますから」

「ま、それはいいとして‥今後の事ですが」

「今後?」

「ライナさんも元鞘に戻りましたし、イリアさんも戻りたいというなら、何か手を考えますが」

「私が居ないとお困りでしょう?」

「ま、たしかに、どうもこの国は脳筋の方ばかりですからね、
事務仕事の負担が全部私にですね‥」

「じゃあ残ります」

「即断過ぎませんか?‥」

「じゃあ帰ります」

「‥私で遊ばないでくれませんかね‥」

「フフ‥」


「冗談はさておき、私としてはもう少し平和な時でいいと思ってます」

「まあ、たしかに、今は相当荒れてますね」

「大体私、皆みたいに強くないですし、ここの仕事の方が性に合ってますから」

「そうですか、ま、後10年も続く訳ではありませんからね、それもいいでしょう‥」

「というからには見立てがあるのですか?」

「此処に来て、各国がようやく軍備を整えてきましたからね、実際、攻めているにも関わらず
ベルフは殆ど国を取れていませんから、よほどの事が無い限りこれ以上の拡大は‥」

「では、もう少しここに居ます、お邪魔でなければですけど」

「いやいや、大変助かりますよ。今後ともよろしくということで」

「はい」



こうして、其々が別の道を歩みだす事となる

それが再び交わる道なのか、幸か不幸か、今の時点では誰にも分からなかった



戦争開始5年、ライナ19歳までの話しである





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