流の作業場

剣雄伝記〜草原の傭兵団編



発端





フリトフルと呼ばれた大陸 多くの大小の国を抱えながら100年もの平和が続いた
この大陸で第2次10年戦争と後に呼ばれる争いが起こる


第一次十年戦争時の反省とあの悲劇を繰り返さない為に「大陸会議」が開催され

大陸条約として。国家間の戦争の戒め、固有の過大武力の保有の禁止が明記され それを皆守った

その後一世紀の偽りの平和が齎される



しかし、人の世に永久の平和などありえないのかもしれない





中央のヘブンズゲート山脈の南、大陸ほぼ中央に位置する大国ベルフ

王は自らを皇帝と称し、ベルフ帝国を名乗る

固有武力を巨大化し、宣戦布告をもって大陸戦争を開始する

大陸間条約を守っていた周辺各国は瞬く間に敗戦、占拠されるに至る。無論それに異を唱え抗議するが黙殺

「平和条約」が足かせになり逆に平和が崩された






しかしその「偽りの平和」が何時までも続く訳も無いと。準備するものが皆無だったわけではない






ベルフが最初の進発を行った時、出撃する軍を山の上から見学する一団があった

「草原の傭兵団」と呼ばれる団である




短髪で大柄な鎧武者の男が青年に話しかける


「始まったな‥フリット」


フリット、と呼ばれた青年。歳は22 細身だが引き締まった体つきの騎士で、長い藍の髪を持つ
一見すると好青年という面持ちである。

「そうだな。情報通りだよ、グレイ」


二人は元は南の地で国の部隊に所属、軍の組織は解体されていたので体面上「治安維持軍」とされていた
部隊の同期で隊長と副長という間柄の腐れ縁でもある


「南西への侵攻。小国ルフレイスとその周辺地域だな」フリットはベルフの目的地を示す

「どうすんだ?俺らも参戦するのか?」

「無駄だ。我々の団は120名。ルフレイスの軍は200.ベルフ軍は千。援軍に行っても即日敗戦確定だ」

「だろうなぁ‥」

「この方面が先となれば、次の狙いはクロスランドだろう。そこまで下がる」





クロスランド。名前の通り中央から、東西南北の街道に繋がる国。4本の街道の合流地故に「クロス」



大陸侵攻作戦を中央から行った場合、ここがきわめて重要な場所でありルートの確保ならまずここだろうと

いわば規定路線に近い優先侵攻先である

それ故街と言うより砦といった作りの防衛戦に適した場所である






フリットの予想通り、ルフレスは1日で敗戦、占拠される、しかしながら
周辺大小の村、集落、街の占領政策には手間取り、実際にクロスランドへ侵攻を始めたのは10日後である




大陸中央の要所、クロスランド、重要拠点であるだけに、境涯な砦ではあり、防衛兵も精兵と言える

だが、この場所ですら、守備隊は50名しかおらず、数の上で勝負になる状態では無く即日敗退、占拠となる

当然だろう千対五十だ、戦闘と呼べるものではない



「どこまで平和ボケなんだか‥」

「が、守備隊はここの重要性は理解していたようだな」

「ああ‥全員玉砕で戦死。生き残り無し、だ」



フリットはクロスランド直ぐ側、北西の丘とも山とも言えぬような場所にいち早くたどり着き陣を敷いて
観察を続けていた


「さて、どうしたものか‥」とフリットが呟いた

しかし、ただクロスランドが敗退しただけでは無い

ソレは午後三時過ぎに起こる




ベルフの一部兵がこちらに向かってくるのだ

「バレたのか?」とも思ったがそうでは無い

フリット達が居る山の麓の集落に50名程の兵が侵入、集落から徴収を始める。
しかしそれは「徴収」とも言えない事態だった

村人を切り殺し、殴り倒し、食料や金品を「略奪」しはじめた


「オイオイ‥盗賊かよ‥」

一緒に居たグレイは呆れたように言った

「軍のやる事ではないな」


「どうするよ?助けるか?」

「無茶を言うな‥グレイ」

言いつつ、フリットは麓に向かおうとする

「何だよやっぱ行くんじゃねーか」

「見に行くだけだ‥他の者は撤収しろ。」とグレイに指示を出しながら歩き出す。が

「おい、聞いたかお前ら?〜拠点まで帰れとさ、後を頼んだぞー」

グレイもそれについていく

「見に行くだけだと言ってるだろうが‥」

「うっせぇ、俺も見たいんだよ」

「まったく‥」


それ以上フリットは止めなかった




実際そこに着いて見ると

それは凄惨な光景だった。

略奪する兵に逆らう訳でもない村人を関係なしに切り殺していく兵

それは彼らにとってはただの遊びと同義だった

村人にはどういう事か分からなかった。何が起きているかすら

ただひたすら、硬直したまま、ただひたすら殺される順番を待っているだけだった

当然なのかもしれない「戦い」等もはや別の世界のおとぎ話のような物でしかないのだ、何をしていいのか、
どうすればいいのかすら わからなかったのだ


山に近い、小屋で老人と子供は抱き合いながら自分達に少しずつ迫る兵をただ見ていた

兵は次はお前達の番か?とばかりに二人の前にたどり着き無言で剣を振り下ろした

老人は子供をかばい体を背を向けて、子供を庇う様に抱きすくめて後ろで剣を受けた、

倒れる老人、大量の血を浴びてそれを硬直したまま見届ける子供




が、そこで一方的な虐殺に変化が起きた




その「子供」は身内を殺した兵を「カッ」と睨みつけた。即座鎖の切れた猛犬の様に兵士に飛び掛った

それはむしろ訓練された猟犬の様だった


兵の足元に滑り込み、足を絡めて転倒させる、落ちた剣を掴み取り。倒れた兵の頭に声にならない掛け声とも
絶叫ともとれる気合の声を挙げて。剣を突き刺し絶命させたのだ


それを見た周囲の住人、兵は固まった

何かを思い出したように

「なんだ貴様!」と声を挙げ剣を掲げ「子供」に向かう

一番最初に「子供」の元にたどり着いた兵に「子供」は剣を投げ出すように振り回しつつ体を縮めて兵の足を斬った

「ぐああああああああああ」と声を挙げて倒れる兵

「子供」は即時立ち上がり山道に向かって走り出す、それを追う兵

「子供」はこちらに上がってくる。そこでようやくその姿を正面から見る機会を得て
「子供」が「彼女」であることを確認できた



短めの赤の髪、まだ、子供と言える、だが決して華奢という感じはしない体。
彼女には大きすぎるであろう奪った剣を
両手でやや地面に切っ先を着けるように持ち。走る

何より驚きなのが、血を全身に浴び、その血の化粧の向こうから、思わずフリットですら後ずさりしてしまいそうになる
見開かれ、爛々と光るような赤い眼


彼女はこのような事態でも冷静だった。いや、第三者から見ればそう見えたのだ



走り、追いすがる兵に振り向いて剣を投げ出す様に大振りの一撃を浴びせ倒す


また、走り、また、追いすがる兵に剣ごと体を預けるように跳び突き殺し、また走る


「おい‥フリット‥これは‥」隣で見ていたグレイも言葉にならない

「‥あの子だけなら、拾えるかもしれん‥」とフリットは言った、続けて

「グレイ、俺は先回りする。後ろを頼む!」駆け出す

「おう」 グレイも走る



少女と兵の追撃戦は、10分以上続いた。山道を只管両者が駆け、剣を一合しては少女は逃げ、兵は追う。

その均衡が崩れたのはベルフ兵が弓を持ち出したからだ

彼らは練兵ではない剣もヘタクソだし、弓もヘタだ、しかし浴びせられた弓のうち2本は少女を捉えた

少女は体を傾けて一本の矢はかわした、だがもう一本は右足太腿に受けた。

思わず「‥!!」と声にならない声を挙げて右ひざを地面につく

そこへ、一人の兵が接近し、上から剣で切りつけた

が、彼女は両手で剣を水平に構え頭に持ち上げそれを防ぎ止めた。声など挙げない、表情も崩さない

兵士は力を込めてそのまま押し潰そうと押し込む

その瞬間「何か」が風を巻き起こし、その兵の力を込める腕を両断した

フリットは「ここまでだ」と見切り、崖上から飛び降りながら二人の間に割って入りつつ、兵の腕だけ切り落とした

何が起きたか理解できないように不思議な顔をした後兵は叫び声を上げて跳ぶように後ろにひっくり返った


フリットはチラリと少女を見て

「落ち着け大丈夫だ。俺は味方だ」

そう努めて平静に言い。兵達と少女の間に入り立ちはだかる

ベルフの兵は「なんだ貴様!そのガキの仲間か?!!」と声を挙げた

「ああ、だが一人ではない」とフリットが返した瞬間、その兵の首が飛んだ

グレイが同じように上から急襲して首をはねたのだ

「な!??」と声を挙げた途端、その兵の首も飛ぶ。それに合わせてフリットも飛び出し、剣を振るう



戦闘は7対2だったが。10秒掛からず終わった

後に残ったのはベルフ兵の死体だけだった


「弱いな、ベルフ兵ってのは」

フンッ鼻で笑いつつグレイが言った

「行動、技前からして、急造兵、あるいはそこいらの野党、盗賊、犯罪者も雇ったんだろう」

「だろうなぁ、やる事がまるっきり盗賊だったからな」

「数だけ揃えればよかったんだろう」



フリットはそこまで言って少女を見た

「大丈夫か?」等馬鹿げた事を言わないそんなわけはないのだ、代わりに



「俺はフリット=レオル、とりあえず君を安全な場所まで運ぶ」そう声をかける


少女は先ほどまでの「獣」の少女では無く、普通の少女だった

「ライナ‥ブランシュ」とだけ短く返した



フリットは子袋から一つ小さな玉を取り出して、彼女に差し出す

「移動するが、その足では苦痛だろう。この薬を飲め、一時昏倒するが、寝ている間は痛みは無くなる。
信用してくれるか?」

「うん‥」とそれを受け取り、素直にそれを口に運んだ



三十秒程して彼女は泳ぐ様に頭をフラフラさせた後、その場に倒れた

フリットはそれを確認してから彼女を抱き上げる

「矢傷はたいしたことは無い、外にずれてかすめるような刺さり方だ。」

「ならさっさと逃げようぜ、敵が増えたらめんどうだ」

「そうだな。」


二人はその場を去った。少女を抱えて‥






二日後、クロスランドにベルフ本国から赴任してきた青年将が訪れる。

司令部として借り上げた安ホテル、そこで最初に受けた報告がこの事件だった



「なんとまぁ‥呆れた話だ‥」

「いかがいたしましょう?」報告した兵は尋ねる

「後で指示を出します、とりあえず下がっていいですよ」

「ハ」と兵は部屋を出る


青年の補佐官と思われる女性が声を掛ける

「その集落の住民はその逃げた少女以外、全員死亡。追った兵も17名死亡だそうです」

「何でもかんでも人を増やすからこうなる‥」

「事後の対応をいかがします?アリオス様」

「調査、と言っても関わった、あるいは目撃した者は全員死んでるからねぇ、まさかその少女を探す訳にもいくまいし」

「探せと言われれば探しますが」

「傷ついたウサギを狩る、いやこの場合は山猫か。そういう趣味はありませんね」

「死体の状況から、その娘を助けた者が居るようですが‥」

「この事態になれば、どこぞかの国から、斥候や情報収集兵は来るでしょう、ですが、相手を特定するのは無理でしょうな
第一、それに構っている暇はありませんな。

まったく、散々荒らした後の畑を綺麗にしろとは酷い命令だなぁ」

「ご尤もですが、アリオス様がやらねば誰がやりますか?」

「ですよね〜」「まあ、とにかくこの件は簡単に終わらせましょう」

「というと?」

「軍令無視の兵の略奪、虐殺、一般市民への行為、で、もう死んでますが‥関係者は処刑。
略奪に関わった残りの兵は拘束して本国に返送。事実を発表したうえで
公式謝罪、以降、兵への命令無視の非常識な行為に厳罰と告知して終わりで」


「分かりました」と短く答え補佐官の女性は退出した


コーヒーを軽く啜ってからアリオスは、ほんとに嫌そうに溜息をついた


すると今出て行った補佐官が即座戻ってくる、小脇に書類の束を抱えて

「あの、アリオス様、略奪、暴行が後40件ほどあったようで‥」と

「私は政治官では無いんですがね‥」

「申し訳ありません‥しかし、司令官クラスで内政処理出来る方が‥」

「何でうちの軍は脳筋ばかりなんでしょうね‥私を過労死させる気ですか‥」

「で、どうしますか」

「とりあえず処理は同じで、当事者を拘束送還、被害者には‥賠償、金があるわけではないので
金10〜20の範囲でどうにか納得してもらいましょう‥命令の徹底と私の下から近衛を出して見回り、
これで、安心してもらうしかありませんな」

「はい‥では早速」


と今度こそ補佐官は部屋を出て、しばし戻らなかった





「ライナ」と名乗った少女が目を覚ましたのはキッチリ五日後だった

そこは簡素なベットにテントといった部屋だった、いわゆる野営地の仕様である

ライナが目を覚ました事に気がついた、その部屋に居た少女がライナに振り向いて


「起きた?気分はどう?」と聞く

そう聞かれて。自分の体調を確認する、少し頭がふらつく、あの時受けた右足の怪我は無かった

「え?‥矢傷が‥」と思わず声が出る

「ああ、それは治したわ。私戦闘僧なの。神聖術って知ってるかしら?」

「ええ、癒しの魔法を使う、それでいて戦闘訓練を受けた‥」

「そう、私それ、えーとライナだっけ?」

「ええ」

「そう宜しく、私はイリアよ」そう言って彼女握手を求める


イリアと名乗った少女はライナより少し年齢は上だろうか、青系のショートの髪に白い衣装と肌
やさしそうな面持ちの少女
人当たりのよさそうな彼女に安心した


ライナはそれに返し手を握る

「こちらこそ」

「そのまま寝てて、誰か呼んでくるから」と言うなりイリアは即座テントを出た




その報告をイリアから受けるフリットとグレイ「分かった」とだけ短く答えて
イリアが自分達のテントから出るのを確認してから話す



「で、どうすんだ?フリット」

「別に、いつもどおりさ」

「アレは使えそうだが‥」

「剣はどうかしらんが、稀な才能の持ち主であるのは事実だな」

「んだな」


「逃れようの無い絶望に直面したとき。人は2種の行動のどちらかを取る」

「何も出来ず泣いて喚くか、窮鼠と化すか?」

「が、あの子はどちらでもない。あくまで冷静で客観的に。ベルフの兵を切り倒した」

「俺でも恐怖するほどの「眼」だったな‥」

「ああ、だがバーサーカーの類でもない。しいて言えば‥アサシンか」

「普通は訓練して作るもんだがなぁ」

「だな、だがあの子は生まれつきそれを持っている、という事だろう、千か万に一人の才能だな」

「おっかねぇな‥」

「何れにしろ、事情話して、彼女の意思を尊重する、それには変わりは無い」

「そっか、まあ、しかたねぇか」




三十分程してライナの居るテントにフリットは顔を出す

「あ‥」とライナとイリアは彼を見て声を出す

「イリア、彼女に新しい服を。出来たら呼んでくれ、外で待つ」

「はい」

と短い会話だけ済まして彼は外に出た

五分後、ライナとイリアはテントを出る、まずフリットは

「イリア、すまないが外してくれ」

「はい」何も聞かずイリアはその場を離れた


「ライナ、色々と話すべき事がある、来てくれ」と歩き出す

ライナも「はい」と答えてそれに従う


フリットは自らのテントに招き粗末なテーブルセットに座り、対面の椅子を勧める


「君はいくつだ?」

「14です」

「ここは‥俺の傭兵団のアジト、と言っても移動式集落でもあるが」

「傭兵団?」

「ああ、ここに居るのは、殆ど同じ境遇の者だ。親なし、独り身、後顧の憂いの無い者。
俺はそういったものを、時に君のように助け、集めている。希望者はどこかの
戦火のまだ、及ばざる場所に開放したり」

「傭兵、て事は戦うんですよね」

「そうだ、が、希望した者だけだ、戦闘が好きな奴などそうは居ないからな」

「ですよね」

「今残って戦う者は百二十程だ」

「何の為に戦っているのですか」

「創設からの目的は「いつか平和の壊れた時の為に」戦争に加われる組織を作り上げる事。だ」

「戦争‥」

「大陸条約を知っているか?」

「ええ‥平和の為に国家が軍力を放棄するルールでしたよね」

「ああ、だがそれが壊れた。各国が条約を守り、治安維持以外の兵力を切ったからだ。そして軍備を再編する間も無く
ベルフに侵攻されるだろう‥我々は、それを防ぐ。いや、一日でも時間を稼ぐ、それが目的だ」

「時間を稼ぐ‥」

「皆支配されたくはないだろう、何れ軍力を整えるハズだ。が、その時間は、このままでは取れぬまま滅ぼされる」

「あんな風に‥、皆、殺されるのか‥」

「多かれ少なかれ、起こるかもしれぬな」


二人は一時沈黙する


「ま、それはこちらの事情だ。まず、俺は君の希望を聞く、残って戦うか、どこかで普通の生活を送るか。

好きな方を選ぶといい」

「あの‥」

「ん?」

「私の村は、どうなりました?帰る事は可能ですか?」

「それは無理だ、あそこは‥全滅した」


それを聞いて、ライナは静かに俯いた、取り乱したり、泣いたりしなかった


「落ち着いているな‥」 その態度を見て思わずフリットは呟くように言った

「だろうとは、思いましたから、それに‥一人になるのは初めてではありませんから‥」

「そうか‥」

フリットは席を立ち

「時間はある、ゆっくり考えればいいさ‥」と言ったが


即座に


「いいえ」とライナは言った

「残って、戦います」と


フリットはそういった彼女を見てしばらく無言だった。そして黙ったまま背後に立てかけてある剣を取り
ライナに差し出す

「練習剣だ、切れはしない。とりあえず基礎だけは教える。その後の事は後で考えろ、嫌になったり
合わないと思えば団を抜けていい、それだけだ」

「分かりました」 ライナはそれを受け取った


皆同じ境遇の者、だからヘタな慰めや優しさ、応援など偽善にしか感じない、だからフリットは無用な事は言わない


「考え自分で決めろ」これが彼の示す道だ









「草原の傭兵団」は、当初、どこかの国の防衛戦に援軍参戦する事は無かった

援軍に行く先の国、の兵力が過小過ぎた事が原因だ。彼らの団は120名、精兵だが数が足り無すぎる

更にベルフ軍は「数だけは揃えて」時間を極力置かずに次へ次へと進軍、他国の軍備の強化を前に瞬く間に数で押しつぶしていった

そうして半年経過した

ベルフ軍はベルフ本国、両隣、クロスランド、並びに周辺国4国を抑えた所で侵攻が一時止まる

内治の安定を図った為だ





この間、ライナは剣術の基礎をならいつつ、自己でも寝る間を惜しんで訓練に励む

この団は彼女にとっては居心地は良かった

誰も余計な事を聞かないからだ、それは皆同じであったからだ

ただ、彼女の手当てをした少女 イリアとは友達になった。

「相手が居たほうがはかどるでしょ?」とライナの訓練を手伝ってからだ

イリアは神聖術の他に、棒術、徒手拳法を少々使う、余りにライナと質の違う戦法なので互いが互いに教えあう

というのは無く、実戦形式の戦いで、お互いを高めあった

最初はイリアに連戦連敗だったが。半年を通して続ける内にライナのが勝率が高くなる事態になった


「なんかもう‥追い越されちゃった感じ?」

「え?‥さあ‥どうなんだろ‥慣れ?て感じ」



それを見ていたフリットは二人に近づいて

「なら俺とやってみようか」と言った

「えええええ!?」とイリアはびっくりしたが、意外にもにライナは

「いいですよ」そう返して



両者の対戦となる





当初、フリットは「どういう感じなのか見れればよかろう」という感じで受けて、始めたが

20合程打ち合って後、次第に空気が変わる。ライナは攻めの中で「あの時の眼」に
少しづつ変わっていくのが見て取れた

それに呼応するように、彼女の剣の筋が安定し、早く、正確に何かを狙っているようにそこを突く

どれほど続けた打ち合いなのか。フリットも分からなくなるほど集中していた

そうでなければ防げない程の「何か」だったからだ、フリットの集中力の高まりと共にライナの眼も坐ってくる。

一瞬ライナはその姿を失う程の動きを見せた、フリットは「ハッ」として跳び退りワイパーの様に剣を払って避けた

それが「偶々」ライナの放った胴突きを防いだ

両者距離を取って睨み合いになる

が、そこで


大きく手を叩いた音と共に「ハイハイ!そこまで」と外野から声が掛かって水を差され止まる

何だ?と思い二人はそちらを見るといつの間にか見学に現れたグレイに声を掛けられたのだ


「お前ら、殺し合いする気か?程ほどにしとけ」

「‥どのくらいやってたんだ?」

「さあ?十分くらいじゃねーか?」

「そんなにか」


集中しすぎて気がつかなかったが周囲にいつの間にか十人ほどギャラリーが居た

これは流石に、とフリットも思ったか

「ライナ、今日はここまでにしよう」そう言って切上げる

「はい、ありがとうございました」とライナは言って振り向き歩いていく

なんだもう終わりか、とギャラリーもバラバラと離れていった




「で、どんな感じでした?ライナは」イリアは興味深々という感じだ

「そうだな‥」

「もったいつけねーで教えろよ」

興味津々なのはイリアだけじゃないようだ



「とりあえず、どんな感じなのか、という程度で「受け」に徹していたが、徹しきれない程攻めが強烈だな
しかも集中力が高まってくるとより正確で早くなる、最後の一撃は完全に見えなかった。避けれたのは運だ」

「すごいわね‥」

「ああ、しかもあの時の「眼」あれを次第に見せ始める」

「うむ、だが、自制は出来るようだ、声を掛けられて即座に元に戻ったからな」

「兎に角、敵にするのは面倒だな。攻めが一々嫌らしい」

「というと?」

「全部守り難い所、一撃で致命傷になりうる所、構えから見える小さな隙、これを間断なく攻めてくるな」

「へー」

「が、余人に教えられる物では無いな、その瞬間瞬間で判断して変えているのだろう」

「天才、て居るもんだなぁ」

「うむ、だが、戦闘は天才だろうが、「剣」の天才ではなかろう」

「?」

「今もっている武器が一番効率的だからそれを使う、もっと効率的な物があるならそれを拾う
ということだな、効果があるなら、石ころでも、砂でも」

「気持ち悪いな」

「私完全に追い抜かれちゃったわ‥」

「俺らも直ぐ抜かれるだろ」

「どうかな、普通の剣の戦いならそうでもないだろう。達人の様な相手には厳しい、あれは正統的な相手には弱い」

「それも「慣れ」たらどうだかな‥」

「うちってそういうタイプ居たっけ?」

「‥俺が相手するしかないか‥とても名人や達人ではないが‥後はバレンティアくらいか?‥」

そこまで言ってフリットは思考する

「なんだ?」

「いや‥、即戦闘に出してもいけるなと‥」

「それにここは「天才」が多い。全員まとめておくか」

「ああ、そういうことか‥いんじゃねーか、早めに引き合わせておいても」



それは5日後、実行される






ここの、いわゆる若年兵が集められる。と言っても人数は6人しか居ないが



イリアとライナが二人で広場に来ると二人に近づいて来て話かける3人


「こんにちは、貴方がライナねバレンティアよ」

バレンティアと名乗った女性、歳は17、銀と金を混ぜたようなロングの髪を後ろで束ねた美少女
右手全体を覆う様なガントレットを着け、細剣を携えたどことなく品のある落ち着いた少女


「俺はショットガルド。剣士だ」

ショットと名乗った少年 歳は16歳 黒尽くめの衣装と剣、合わせたかのような黒の髪と瞳を持つ
不敵な笑いを佇ませる少年


「ロックです、よろしく」

ロックと名乗った少年、年齢15歳 背はライナとさほど変わらない腰に中型剣を二本帯刀し
ナイフの束を持っている
見た目子供ぽさがかなりある、元々童顔で、栗色の髪、そこそこ美少年という感じだろうか


「で、あそこの木の下で寝転がってるのが」言いながら背中越しに親指で差しながらショットが紹介する

「クイック、本名じゃないらしい、弓の連続射手、それがやたら早いからクイック、だそうだ」


その「木の下で寝転がってる青年」は長身で弓を抱いて眼を閉じたまま、寝ているというより瞑想しているようにも見える

端正な顔立ちのやや緑ががった黒髪の青年 年齢は18

それとイリアの6人


「始めまして、ライナです」と自分も返す。いきなりなんだろう?と思いつつも皆、悪意や変な視線は受けない

歳も近いという事で警戒心は抱かせない


そこでフリットが現れる

「集まったな。」


「なんだよおっさんいきなり」とショットが開口一番言う

思いっきり横に居たバレンティアに頭を叩かれる

「おっさんじゃないでしょう!」

「おっさんでいいからちょっと黙ってろお前ら」



「いよいよ団の方に国から援護要請があった、南方の小国だ。お前らはこのメンツで隊を組んで参戦しろ」

「まじかよーやったぜ!」とショットはほんとに嬉しそうだが

「無謀じゃないですか?」バレンティアに即時否定される

「当然だ、お前らは後方観戦だ、戦わせる訳なかろう」

「んだよ‥つまんねーな」

「アホなのあんた?。若年兵がいきなり前線な訳ないでしょう」と兄弟漫才みたなやり取りが始まる


「そうだ、若年兵をまとめただけだ、いきなり死なれちゃ困るからな、それだけだ。
まあ、精精仲良くしとけ、以上!」

そう一方的に言ってフリットが終わらす



「いやさ‥俺ら戦えるし、ふつーに、ほら天才だし俺ら」

「自称でしょうに‥」

「ま、ショットとクイックとバレンティアは年齢的にも良かろうが、後の3人は15〜14だ流石にないだろう
それに、これも不利な戦だ、こっちもお前らを助けてやる余裕はないからな、そういうわけだ」

「チッ」と舌打ちしてショットは引き下がる

フリットは一応同意したのを確認して去っていく



残された五人と一人は雑談を始める

「仲良く、たってどうすりゃいいのよ。パーティーでもするんか?」

「うちの貧乏団にそんな物資の余裕はありませんよ」と両手を挙げて首を振り、ロックが返す

「んじゃーさ、試合しようぜ、この中で強さ知らないのはライナだけだし」


「アホですか?」

「最年少者苛め?」

「非常識ですね」



同時に罵倒される。しかしライナは

「別にいいですけど」と言って一同ギョッとした


こうして言いだしっぺのショットとライナは試合をする。

さすがにないわーと皆思ったが

意外な事にライナが勝ってしまう


初めは余裕をかましてかるーく受けていたショットだったが、段々ライナの攻撃の鋭さに防御しきれなくなり
「いい加減離れろ!」とばかりに彼女をどかすように大振りの横押し斬りを繰り出すが
ライナはそれを身を屈めてかわしつつサイドキックをショットのどてっ腹に叩き込んだ

「うぼぁ!」とマヌケな声を挙げて後ろにひっくり返って悶絶した

「ぐおおおお‥」と転げながら「い、いきなり蹴りとは」と言ったが

返ってきた言葉が 「ごめん、あんまり隙だらけだったから‥」だった



周囲はそれを見て笑いを堪えていた

「ざまぁですね」

「なめてかかるからこうなる」

「自分でしかけておいて‥」

またも酷い言葉の暴力で袋叩きにされる


「あーまあ、でもよ、どんくらいの強さか分かったし、いんじゃね?」

「なったのかしら‥」

「いや、あんまり」

「なめて掛かり過ぎて、あまり参考には‥」




その後は一同は皆で行動するようになった。仲良くかどうは知らないが
少なくとも青少年の仲良くでは無かっただろう。共に立会いと修練を繰り返し
バレンティアとショットの漫才やりとりをはさんで雑談してという感じだったろうか


一方「団」の出撃は行われた、最初の援軍戦の少年兵達は「後方観戦」どころか、街から観戦
いわば何もせず行軍にも関わらず、街から、前で戦う軍と団を見ているだけだった


「これって完全に蚊帳の外ってやつだよなぁ」

「楽でいいけど」 ショットとバレンティアは続けて言う

「参考にはなりますよ」メモを取りながらロックはさして興味は無さそうだ

「何のだよ?」

「数の差はいかんともし難い、という事と。うちの団に選択権は無いって事ですね」

「なんだそりゃ‥」

「400対1000で、普通に正面決戦しても意味が無いって事と。
うちの団は結局雇われ者。戦略的に口を挟む権利は無いって事です」


ロックの言う通り、傭兵団は数合わせで参戦しているような状態なうえ
独自に作戦を無視して動くわけにもいかずただ只管、正面で防衛戦を展開するしかなかった

「アホウな国に使われると何にも出来ませんねぇ」

「じゃあどうすんだよ?」

「いつか「当たり」の国を引くか、我々の自由にさせてくれる度量のでかい国に雇われる
あるいは参戦交渉の際、こちらの要求を飲ませる、くらいですかね」

「すげ〜後ろ向きで運任せな話だな‥」


はぁ〜と溜息をついてロックは


「ま、我々は個々の修練に努めましょう、どうせ前線に出ないんですし」

「しかないわね‥」



そうして彼らは、参戦はするが何もしない出来ない状態、を更に半年程繰り返す事になる
ベルフの威勢は留まる事を知らず戦争の勃発から一年過ぎで中央を手中に収める事となる


このまま一方的に負け続けるのかと多くの人が思っていた頃
光明が見え始める


銀の国に侵攻したベルフ軍が氷の女王マリアの軍に大敗退を喫する


森に移動陣を敷いた団もその報を受ける


「団長以外にも有事に備える、者は居たんですね」


具体的にどのような戦略と戦術でマリアが戦ったのか、詳細が分かると更に驚きだった


「笑っちゃうくらい見事ですね」

「んだなぁ‥」

「快進撃で油断があったのは事実でしょうけど」

「でなくても、たぶん引っかかるでしょう、主力を囮にしたニンジンですから、この場合ステーキですかね」

「そりゃうまそうだ」


そこにフリットが顔を出す


「お前ら、次の任地はクルベルだ、出立の用意をしておけ」と

「また俺らの出番なし?」

「だろうな」とだけ返して立ち去るフリット


あーあ、という感じでつまらなそうにしたショットだが

ロックは違った

「これ、当たりですよ」

一同「え!?」


転機




南方の強国クルベル。伝統的騎士の国「鉄騎士団」と呼ばれる部隊を抱える
その伝統と名声から大陸条約の中一定の兵力を維持する事を容認された国である
また、南方面への街道のど真ん中にあり、ここを落とさないと南方侵略は難しいとされる地でもある

「まともな戦争になりそうだな」ショットは楽しみそうだが

「でも、また留守番じゃ‥」とめずらしくライナが突っ込んだ

「出番無し、て言ってなかったっけ?フリット」

「言ってましたね」

「うわああああつまんねええええ」



団の移動集落が近かった故、クルベルには早々に到着する。
戦争の空気はまったくない、堅牢で豪華な城と豊かな城下だ
フリットとグレイは城に向かう。

「ベルフの侵攻は先の話だ。お前達は観光でもしていていいぞ」と
言われたので少年部隊の6人はそれぞれ街を散策する

イリアとライナは二人で行動していた

「私はここに何度か来た事ありますよ」

「そうなの?」

「私の生家はこの南の村ですから、そこから更に南に行くと術を学んだ、学術都市。フラウベルト王国あります」

「神聖術、だっけ?、どんな修行するのかな」

「魔術とそう変わりませんよ、学んで、使ってみて、違うのは洗礼を受けるくらいでしょうか、魔術とは
方向性が違うだけで、基本的に同じ物。だそうです」

「魔術は名前だけはよく聞くけど、使う人って聞いた事がないけど」

「一時放棄同然になりましたからね‥そうなると取り戻すのは難しいでしょう」

「そういうものなのかな」

「何しろ、教える人が居ませんからねぇ、独学では限度があるかと」

「剣とは違う、か」

「ところで。」

「うん?」

「ずいぶん団に馴染みましたね」

「だね、皆他人に干渉しないし、楽だよ凄く」

「皆、という訳ではありませんけど、それぞれ心に傷を持つ者ですから。土足で人の心に踏み入る真似はしないでしょう」

「でも、うちの隊の皆はやたら明るいよね、特にショットは‥」

「うーん、でも、彼も孤児ですし。それなりに苦労はしていますけどね」

「そうなんだ‥」

「と、言うより殆どそうでしょう。団長らと、私、団長の軍に居た時からの人以外大概そうですね」

「そう」

「ライナさんだって似た様なものでしょ?」

「そうね、でも皆それを全然出さない」

「沈んでいても何も得はありませんからね、こんなご時勢ですし。せめて楽しく、でしょうか」



「ま、私にはそういう傷はないんですけどね」

「そうなの」

「ええ、フリットの遠縁で誘われて来ましたから」

「へぇ〜。親戚だったんだ‥」



一方城では傭兵団と軍部責任者との会談が行われていたが
現状、ベルフ軍の侵攻が明らかになってからの援軍要請では無く
それに備えての傭兵団を雇おうという流れであった



「ベルフが南進するなら必ず、ここを攻める、それは大兵力に間違いない
我々の軍力は整っているが、事態がどう展開しようと対処できる体勢を整えたい、故に貴殿らの協力を求めたい」

「まだ、何も情報は出ていないと?」

「左様。貴殿らの傭兵団はここ滞在していただき。備えをお願いしたい」


フリットとグレイは頷き合う


「我々の団の戦争での役割はどうされますか?。それによって準備も変わりますが」

「なにぶん相手の構成などの情報が出てから戦略という事になるので。
ただ。」

「ただ?」

「貴殿らの団は現在200名。少数であるが個々の錬度や武も優れていると聞く、作戦が決まらぬと何とも言えぬが
我ら主力と連携は難しい、故に戦場では自由遊撃という形になると思う。が、戦局が動いてからの話だ
当初は後方観戦となろう」

「わかりました。全体を乱さぬよう参加いたします」

「よろしくたのむ」


フリットとグレイは席を立つが

「傭兵団の方には宿として軍の旧官舎を用意しました。いつに「事」になるか分かりませんので、
そちらへ滞在してお待ちいただきたい」

と紙を差し出す

「感謝します。皆喜ぶでしょう」



会談はここで終わる



夕方、現状の説明と、ここへの滞在が指示される
団の一同は、これはありがたいと割り振られた部屋にそれぞれ入る

旧とはいえ官舎はなかなか立派なものだ。中央に広場がありそれを囲むように寝屋が建てられる
普段が野営だけにこの待遇は有難かった、団といっても移動式の傭兵団、非戦闘員や女子供も居る
更に長期滞在の可能性もあるとなればそういったもの達のストレスも少ない

一番大きいのは、自己判断での参戦を要請された事だろう
自由に動ける戦いというのはコレが初である


「しかし厚遇だな」

「猫の手も借りたい、という現状だろうからな」

「見たところここは3千ほどいるな」

「というからにはそれ以上の規模で来る、だろうなベルフは」

「つねに相手より数は揃えてくるからなぁ」

「規模が大きすぎるな、さてどうしたものか‥」

「自由な立場、は良いが、こう、でかくなると逆にやる事がないよなぁ」

「ま、あまり無理は出来んな我々には「次」が常にある立場だ」

「だな」


官舎の食堂で食事を済まし手持ち無沙汰でコーヒーをなんとなく啜るショット

「つってもさぁ‥俺達やる事ないんだろ?」

「無い、でしょうねぇ。結構な規模の戦闘になりますから」と相変わらずメモやら書いて空返事のロック

「前線のが役に立つんだけどな俺」

「僕は後方観戦でもかまいませんけどね、剣士志望じゃないんで」

「あっそ、そいや他の連中どうしたんだ」

「私なら居るわよ」そこにバレンティアが現れ坐る

「他は?」

「クイックは部屋で武器の手入れ」

「ライナとイリアは外に出てった、また訓練じゃない?」

「よくやるよほんと‥」

「あんたもブーブー言ってないで混ざってきたら?」

「やだよ。イリアは兎も角ライナは疲れるし」

「あんでよ?」

「やってみりゃ分かるよ、めちゃくちゃ攻撃力が高いんだよあいつ、しかも後半になるほどつえーし」

「僕もそれには同感です、僕の二剣でも防御がやっとですし、めちゃ疲れますよ」

「外から見ててもよく分からないわねぇ」

「対面してみりゃ分かるよ、バレンティア、剣は団長と互角くらいだろ、いい勝負になるんじゃね?」

「最年少だからって気を使う事もないでしょう。ライナにとってもいい練習になるでしょうし」

「ふむ‥」とバレンティアは腕を組んで、思考する

「そのうちやってみようかしら‥」と言ったが


バレンティアとライナの試合は翌日の昼前には実現される


「という訳でお相手願えるかしら?」というバレンティアの言に

「うんいいよ」 二つ返事でライナが受ける

当然ギャラリーもかなり集まる

「私だと練習が限定されるのでバレンティアさんが変わってくれるのはありがたいですね」

イリアは武器の棒を置いて離れた


「では」

「はい」


そうしてこの一戦は始まる。


当初二人は「手合わせ」の範囲で戦っていたが。

ライナは集中力の高まりと共に速さと精度が上がる
それに対応してバレンティアは自己の力を次第に全力側に傾けていく

3分ほど攻防を続けただろうか、バレンティアはライナの表情、発せられる空気に「ある事を思い出す」

「この眼」 「この冷たく刺さるような空気」似てる、と

終盤、バレンティアは完全に本気だった。

でなければ「負ける」と感じた

お互いの剣がお互い認知出来なくなる程の速さを生み出す

それが合わさった時


「あ!」

「え?」と同時に声を挙げた


打ち合って合わさった剣が「斬り折れた」


時が止まったかのように硬直したが

バレンティアはフッと笑った

「練習剣とは言え折れるなんてね‥ここで終了、かな」

「ですね」とライナも薄い微笑みで返した

お互い折れた剣のパーツを拾って「今日はここまでね」と離れる

ギャラリーからパラパラと拍手が挙がった






しばらくして人も去った屋外中央広場でバレンティアは座ったまま空を見上げていた

「たしかに全力を出せて楽しかったけど‥それと同じくらい怖い」と呟いた

「似ている、からな」と どこからか現れたクイックが声を掛けた


「似ている?誰に?」と自分でも分かっていたがクイックに返した

「お前の師匠にだろ?」はぐらかせない言を更に返された


「バレてたか」

「俺も一度だけ見た事があるからな。アーリア=レイズを」

「性格も見た目も似てないけどね」

「ああ、だがあの眼と空気は同質だ」

「怖いわね」

「怖いな」

「私は技を継いだけど、あの怖さを得られなかった」

「しかたないさあれは生来の物だ、真似られるものではない。もしくは数百は殺さねぇと身につかないだろう
しかもそれなりの才能あっての事だ」

「貴方でも無理なものかしら」

「無理だろうな、「偽物」なら訓練で身に付けられるが」

「そっか」

「昼を大分過ぎた。腹減ったろ、戻ろう」

「そうね」


とようやくバレンティアはゆっくり立った


「しかし、まあ、ライナと剣をあわせるのは良い事だ」

「そうねぇ、そもそもあのレベルだと団でも「良い勝負」になるのは私と団長くらいだろうし」

「だろうな」

「クイックはどうなのかしら?」

「俺は「弓士」だ」

「そうだったわね」

バレンティアは以後、ライナと積極的に「手を合わせる」事になった、お互いにとって有益であるし
自己を高め合うには格好の相手ではあった

ただ、皆が言うように相当疲れる相手でもあるが



その後3ヶ月程情勢は動かなかった。

動き出したのは秋ごろ。だがそれが齎された時一同は驚きであった

ベルフの五大将の一人エリザベートの進発である
敵の全軍はほぼクルベル軍と同数三千
恐らく10日後には領内には入り戦闘となるだろうという情報が齎される


意外な事に倍する軍勢は出して来なかったのだが
指揮する者が「あの」エリザベートとなれば苦戦は免れないという意識が自然芽生えた

クルベル側と団は今後の対応を話し合ったが、そこで朗報を受ける
南の神聖国フラウベルトが援軍の用意があると告知してきた事だ
となれば優位に運べ、これまでの絶望的状況とは異なる


しかしこの一連の報を聞いた6人のうちロックは少し違う感想を持ったようだ

「同数を揃えてきた、のが妙と言えば妙ですね」

「なんかあんのか?」

「1単なる小手調べ、2援軍待ち、3これ自体囮。好きなのを選んでください」

「え、えー‥」

「まあ、エリザベートは純粋な武人だそうですし、小手先の策を弄するかどうかは謎よね‥」

「もう少し経過を見ないとなんとも」とロックは言ったが
それが現れた時1で、バレンティアの意見が正解と形に表れた


ベルフ軍はクルベルの領土に侵攻、王都と対面する形で堂々と陣を敷いた

ここは広大な平地で左右は湖と川。いくばかの草のある場所、野戦にはもってこいの場所である

また、エリザベートと言えば
百人騎馬の指揮官でもありそれを展開する余裕のある戦場では敢えて策を弄する必要もない程強かった故でもある

フリットらの傭兵団は当初の予定通り
クルベル軍の陣形の右後方に配置され、まずは策を弄さず正面決戦の形が取られた


しかしながらここで何時もの観戦で無くその日は例の6人も本陣に加えられる


「て、事は戦っていいって事か?おっさん」とショットは疑問に思いながらも聞く

「と言っても本陣自体が観戦だからな、それにまあ、年齢的にも前に出てもよかろう」と言った為

「よっしゃ!」ショットは嬉しそうにした

「が、ロックとライナとイリアはあんまり前に出るな、まだ危なっかしい」

「はい」と謂われた三人は特に不満も無くそれを感受した



手合わせの決戦






いよいよ開戦となると、互いに中央、左翼、右翼と軍を分け正面からぶつかり合う

伊達に「鉄の騎士軍」などと呼ばれておらずクルベルとベルフは互角の戦いを展開する
それが2時間程経過したあと

「それじゃそろそろ崩すか」とばかりにエリザベートの騎馬隊が出撃 左から周りクルベル軍の右翼側面から突撃をかける

それは予測済み、ではあるし、彼女の何時もの戦法だ。クルベル軍の右翼はそれに合わせて迎撃体制を取る



エリザベートの隊は「迎撃体勢を整えた」相手を逆に貫いた

そこから殺到して開いた穴を広げる様に隊は左右に広がりながら手当たり次第クルベルの兵を切り捨てて行く


驚異的な火力だった 前に立ちはだかる防衛兵を案山子でも切り捨てる様に叩き伏せていく
これにはクルベル軍も驚愕だった
そこにベルフ軍の左翼が威勢を強め突撃して突き崩しにかかる


戦法としては単純な物だ、対応手段を事前に準備される程知られたエリザの突撃戦法だが
それ自体を叩き潰すほどこの部隊の強さは尋常でなかった

個々の武に優れた百人とエリザベートの無双ぶりは如何なる敵も叩き潰す勢いだった

「分かっていても防げない」だからこその戦法なのである

開戦3時間でクルベルの右からくずされつつあった



これは、と思いここでフリットが動くあれを止めるとばかりに
クルベル右翼に食い込んだ百人騎馬に左側面から攻撃をかける

一時百人騎馬は下がり食い込んだ牙を離すが即座に体勢を整え、傭兵団とぶつかる
「とにかくあれを止めないと全体が崩れる」フリットは自ら最前線に立ち刀を振るう


が、個々の武に秀でた騎馬隊はただの兵では無く強く、フリット自体とも剣を合わせられる精兵だった


それでも団全体数は倍それは互角に戦った。構成もその目的も敵味方ともにほぼ同じ物を目指した物だから

が、その均衡もエリザベートの攻撃で崩れる。彼女に立ち向かった兵は瞬く間に5人斬られる
フリットは咄嗟に前にでて

「そいつと戦うな!まともな武芸者ではないぞ!」と走る


エリザベートに即時斬りつけるフリット
それに応じてその剣を受けるエリザベート


「貴様が隊長か!」

「応!フリット=レオル参る」


正直自分が「あの」エリザベートと互角に戦えるとは思っていなかった
アレと剣を合わせられるのは世界でも幾人も居なかろう
だが、エリザベートを無視しては全体が崩れる。やるしかなかったのだ

二人の馬上斬り合いは10合有った。やれるか!?と思った途端
エリザベートの何気ない一撃をフリットは受けた途端大きくバランスを崩された

何気ない、速度も、振りも同じだが、威力と重さが段違いの打撃をぶつけられたのだ



馬上でぐらつくフリットに次撃、それを何とか受けたが受けきれる体制でなく、そのまま馬から落とされる

止めの一撃が来る、と覚悟したが、フリットは中腰の姿勢のまま剣を構える




二人の間に馬が割り込み、止めの一撃を防ぐ。ショットが間に割り込んで救出した

「何?!」とエリザベートは一瞬戸惑うが、即座攻撃態勢を取る

「次は俺が相手だぜ!」と剣撃を繰り出すショット。エリザはそれを受け即座、槍斧を返す


正直今のショットでは「まだ」荷が重い。4度打ち合うがショットの乗る馬ごと吹き飛ばす様な一撃で馬から飛ばされる
彼は慌てた様子も無くひらりと地面に着地


「まだまだ!」と剣を構える。

エリザベートの一撃は受けれないと察知したショットは自分から跳んだのだ

「やるな小僧!褒美をやる!」渾身の一撃を構えるショットに打ち込む

それを両手で剣を持ち受ける

「グッ!」と声を挙げて堪えたが即座「げ!」とマヌケな声を挙げた

受けた剣が折れたのだ

「ハハハ!才能はあるがまだ私の相手は務まらんよ!出直して来い!」

エリザベートは地面に居る二人の目の前
当たらない距離の足元に槍斧の先を横切る様に振り切る

砂と埃が巻き上がり二人は顔を隠す 次があるのか?と思ったが
エリザベートは馬を2歩下げ距離を取った



その悠然と構えるエリザベートに「何かが」飛び掛った「な!?」と声を挙げてエリザベートは槍斧の下半分
柄を上げて咄嗟に「何か」を受ける
「ガン!」と打撃音が響きエリザベートは馬上でぐらつき、馬もバランスを崩しかけたので
やむなく飛び降り地に立ち。槍斧を構える






彼女の面前、5メートルの距離に体を小さく前傾姿勢で傾け、睨み付けるライナの姿があった

フリットとショットの危機に咄嗟に飛び出し馬上のエリザベートに飛びながら斬りを放ったのだ


「次から次へと‥」と構えるエリザベート。槍斧を握る手が強くなる



その飛び掛って来た相手と対峙してギョッとする

「なんだこいつ‥」思わず声が出る

そう体格の大きくないセミロングの赤髪の女、全くの無表情で反面眼だけは爛々赤く輝く、両手で剣を握り、
それをだらりと地面に向け
ピクリとも動かずこちらを見つめる少女

まるで迷った夜の森の中で狼に会ったような寒気を覚える


ライナは「初めから本気」だった。味方の危機と緊張の中自分の持っている全てを最初から出した

エリザベートとライナの間にだけ時間が止まったような硬直が訪れる



「何者だ‥お前‥人?なのか」思わずエリザベートはそう問うた

ライナは答えない

「よせライナ!無謀だ!」というフリットの言葉にも答えない、ただ「敵」しか見えていない



エリザベートは戸惑いと恐怖を覚えた、だがそういう感情を覚えた自分がたまらなく不愉快だった

「ッ!」と声を挙げてソレを振り払うかのようにライナに踏み込み槍斧を上段から叩き付ける

ライナは消えるかの様な速度で前進し槍斧の「刃」の無い部分に自分の剣を合わせそれを受ける

互いの一撃で弾かれる様に後ろに引く


即時エリザベートは体を薙ぐように横斬り

ライナはその下に滑り込む様に突撃してエリザベートの脛を剣で払う

「これは防げん」とエリザは飛んでかわす、がライナは前進しながら下から斜め上に切り上げる

エリザは顔を後ろに反らし、ギリギリの所でそれを避けて後方に飛ぶ



ライナは即座に左、右と飛ぶように接近して喉元付近に横斬りを放つ

どうにかそれを槍斧で防ぐが同時にエリザベートの右側等部に蹴りを放ちソレが当たる

思わず右目を閉じて頭を左に傾け衝撃を逃すがこれは効いた

エリザベートは左ひざを地面につけるかという程体勢を崩したが、左手で握る槍斧柄を打ち上げライナを退かすように打撃を返した
ソレがライナの右肩を捉え空中に居た彼女を飛ばす

ライナはダメージを逃がすかのように空中で一回後方回転して地に降り、再び構える

再び両者に距離が出来る


ライナはそれが何でも無かった事の様に一切表情を変えない

が、エリザベートはこれまでの余裕の表情は無く、苦虫を噛み潰したかのような表情だった

「貴様‥」




しかし、その二人の間に青年が割りこんで彼女を止める「姉上!自重してください!」と
彼女の弟で副隊長のクリスが割って入ったのだ

この時のエリザベートは本当に感情の制御が出来ない程本気だった、割って入った弟にまで怒鳴る


「どけ!クリス!、貴様ごと斬り捨てるぞ!!」

「味方を捨てるつもりか!姉上!」と怒鳴り返すクリス


流石にその言葉で「チッ!」と舌打ちをしてエリザベートは数歩構えたまま下がり自身の馬に乗る

それを確認してクリスもライナをけん制しながら下がり馬に乗る

次の瞬間にはエリザベートは冷静だった、表情は険しいままだったが

「後退する!」大声でそう言い馬を返して撤退していった。その動きに合わせるかのように百人騎馬も引く



敵が引いた、それを認知してライナも構えを崩していつもの彼女に戻った。



エリザベートは自陣に戻り全軍の後退を指示。戦闘は一旦中断された

それを確認してクルベル軍も一時後退させ。

フリットも団を収集して部隊を後退させた


正直、崩しかけた相手を途中で放棄、中断して下がるとは思わなかったが。
クルベル側にとってはありがたい事ではあった

エリザベートは本当に「ただ手を合わせてみるだけ」のつもりだったのかもしれない


エリザベートはクリスに謝意と感謝を述べた

「すまぬクリス、熱くなり過ぎた」と

「それが私の役目ですから」彼はそれを短く返した


一方傭兵団はこの出来事で名を馳せる事になる

「まさか「あの」百人騎馬を止めるとは‥」


そして「あの」エリザベートとまともに戦える者が居て、あんな少女がという思いだ
それはそうだろう「団」の者ですら驚きだったのだか


一旦街まで下がった団で例のやり取りが繰り広げられる


「なんか美味しい所全部ライナに持ってかれた感じだな‥」ボソッとショットが呟いた

「美味しい所もって行こうとして、真っ先に飛び出して行ったあんたがソレ言うの‥」とバレンティアに返された

「しかもふつーにやられてましたよね」

「ライナが出なけりゃ死んでたんじゃ‥」

全員に突っ込まれる

「しかもすげーむかつく、あの女、小僧だの出なおして来いだの‥」

「事実じゃないですかね‥」

「そりゃそうでしょ」

また突っ込まれる

「お前ら傷に塩塗るの好きな‥」


その何時もの雑談が繰り広げられる6人の所にフリットが現れる


「ライナ」

「あ、はい!」

フリットは少々困ったげに

「今日は良くやったな、助かったよ。だが、あんな無茶はするな‥」

「す、すみません。」

「いや、咎めている訳ではない。が‥」

「いえ、自分でも分かってます、二人が危ないと思ったら、あの女将と対峙してて‥自分でも全然冷静じゃくて」

「そうか‥いや、いいんだ。皆も良くやったな」

「おう、次もまかしといてくれ!」

「あんたねぇ‥」

「何をどう任せろなのか‥」

「いや、助かったのは事実だ。頼んだぞショット」と、だけ言いフリットは戻った

「あ、じゃあ私もこれで」イリアも続いて官舎に走る


それを見送ってからショットは


「どうしたんだイリア?」

「こっちもあんなのとやった後だからね、味方の手当てでしょ、意外に重傷者は少ないけどね」

「そうですねぇ、早々に向こうが引いてくれたので思ったほど被害は出てませんが、それでも死者は15名出てますし」

「深刻なのはクルベルの軍だな」

「エリザベートの最初の突撃の犠牲者だからね」


「しっかしとんでもねぇ鬼武者だな、あの女、まさか団長も俺も歯が立たないなんてよ‥」

「一応打ち合えてたし、そこまで「歯が立たない」て程でもないんじゃない?」

「でも、全然本気じゃなかったぜアレ、まじで気持ち悪ぃ」

「けどライナさんはやれてましたよね‥」


皆が一斉にライナを見る


「え、それは‥まともに打ち合うから厳しいんじゃ‥」

「どういうこと」

「わからん」

「あの人の武器は長くて重いし、それを振り回せる腕力がある訳だし、まともに受けたら力と威力で負けると思うけど‥
むしろ相手の体に近いほうで受けて力を殺して受ければなんとか」

「いやまあ‥理屈はそうなんだけど、アレ、メチャクチャ早いぜ‥」

「しかも威力が半端じゃないしね‥」

「台風の中心は安全だからって突っ込むようなものではないかな」

「後は‥避けながら前進してカウンターとか」

「そういえばライナのやってた攻めは全部それね」

「うん‥そうすれば向こうも防御に意識を割かなきゃいけないし、そこまでの反撃も来ないから
武器が長いだけに近接に持ち込めばこっちは有利だし‥」


「それもまあ、そうなんだが‥アレ見切って突っ込めるか?」

「結構なカケになるわね‥私でも」

「少なくともやってのけた、という事はライナさんにとっては分の悪いカケでは無かった、という事でしょう」

「そこまで見切れない程早いとは思わないけど‥」


その発言を聞いて一同は「この子って‥」心の中で思った





其の日の開戦はたった3時間半で終了した。そしてクルベルの軍も城内に撤収する。
対面してたエリザベートの軍がそのまま撤退したのだ

ベルフ軍はクルベルと自国領の境界線まで後退。野営陣を敷いてそのまま待機姿勢を取った
何事かとクルベル軍は思ったが、こちらの目的は敵を撤退させればそれでよく
追撃やこちらからの攻撃の意味も無く撤退する事となった

ベルフとクルベルの境界線は軍の移動でまた決戦となれば2日は掛かる
当面こちらの軍を引いても問題は無かった



夕食をとりつつ一同はその話題になった

「ほんとにただの小手調べだったのね」

「小手調べのまま、崩せそうならそのまま突撃、て感じでしょうかねぇ。実際そうなりつつありましたから」

「俺らが止めたけどな」

「ええ」

「けど、エリザベートの隊のあの戦法を止めれる相手が居る、となると‥」

「下がったのがかえって不気味ね、そのへんどう?ロック」

「援軍要請、でしょうか‥これで他の将まで出て来られると厳しいですね。」

「数も揃えてくるだろうしなぁ」

「あんな化け物がまだ何匹も出て来るのかよ、やってらんねぇな‥」

「ゴキブリじゃないんだから‥匹って‥」



一同は今後の見通しは決して明るくない事を認識したが

意外な事に5日後エリザベートは野営陣を引き払い
自国への撤退を行う


エリザベートは本国に事態の報告と、増援の要請を具申したが
皇帝に「将も兵も分散しておる、しばし時を待て」と言われ、やむなく撤退
直々に命をされては受け入れざる得なかった


だが、エリザベート自身は、ある程度の「感じ」をこの一戦で掴めていたので軍を引くこと自体に
さほど負の感情は持たなかった、むしろ自軍の被害がごく少数でソレを掴めたのは過大な収穫といえただろう




撤収の行軍の中でエリザベートは弟クリスとの会話の中でこの一戦の感想を話した



「クルベルの軍は思った程強くない。伝統と名声だけだな。これと言って見るべき人物も居らぬようだし」

「軍自体のクオリティは高いですが、あまり強敵とは感じませんでしたな、むしろ」

「ああ、あの雇われ傭兵団のが強い。我らと目指すべき所は同じ、という部隊だ」

「驚きましたアレには‥それに姉上を本気にさせるとは」

「いや‥本気だが‥、同時に不愉快も同じくらい存在する」

「それは」

「あの小娘だ。こちらが出した手その物に噛み付いてくるような‥。純粋な武人でなく、力をぶつけ合う
という事では無く、徹底して相手の弱点を突くようなやりかた。
体に纏まり付くような嫌らしい戦法
しかも、どんな小さなダメージでも出るならソレを実効して積み重ねるクレパーさ
つまらんし、不快だ」

「‥ふむ‥」

「堂々と正面から挑んできた前二人の隊長と小僧の方が遙かにマシだ
あの小娘はお前を10倍嫌らしくしたような奴だ。それに、あの冷たい眼と空気‥なんだあれは」

「私も見ましたが‥アレは。いえ、稀にですがああいう剣士は居ないわけでは‥」

「なに?!」

「ああ、私は「そういう訓練」も少々受けましたので「そっち側」の人間を幾人か知っているので‥」

「すると暗殺や殺戮訓練を受けた奴という事か‥どうりで‥」


「にしては、堂々と戦場に出てきましたら何とも‥やり方が素人過ぎるような‥」

「資質はそうですが訓練は受けていない、剣士寄りというか」


「職業殺し屋の類ではない、という事か?」

「はい、そういう才能を持ちながら剣士として名を馳せた人物も居ますから
代表的なのがアーリア=レイズとかですね。」

「剣士アーリアか。伝説的な殺戮剣姫だな」


「はい、彼女も「その資質」を持ちながら細剣を持って戦い、剣士としても有名です。
我々の用語でこれを持つ人物を「スラクトキャバリテイター」と言うのですが
これを生来持っている物は私の様に無用な訓練等受けずとも、
「常に最速で最善の選択」を思考せずに体に覚えこませずに
選択出来るという特色があり、物事の、この場合任務ですが

ソレを達成する能力が極めて高く、どのような状況に置いても生存する確率も高いという資質です
故に、それを見出した場合、何より優先してその者を育成します、何しろ
ソレを見出すのは「砂浜でダイヤの粒を手作業で探す」くらいの確率と手間の稀な才能ですから」

「あの小娘はソレだと言うのか」

「でしょうね、ソレを知ってる私でも対峙すると震えがきましたから‥」

「益々不快だな」

「姉上がそう思うのは自然な事です。純粋な武人である姉上とは全く逆方向の剣士ですから」


エリザベートはフッと悟った様に笑った


「あれを見たとき「迷った夜の森の中で狼に会ったような寒気」を感じたが。それは間違いでは無かったか」

「ハハ‥それは言いえて妙な例えですな」

「なんにせよ、戦場に出て来るというならやりようはある、決闘ではないからな」

「左様ですな。が、殺したくはないですなぁ。一生に一度見れるかどうかの資質の持ち主ですから」

「なら捕まえて見世物小屋にでも売り飛ばすか?」

「願わくば」

と締めくくった




しかし皇帝ベルフの「しばし時を待て」は意外な程長い期間だった。

エリザベートに再戦の機会が与えられたのは更に半年後の事であった
いよいよ、とエリザベートが準備を整え始めた頃に更に事態は急転し
それは頓挫する。



銀の国への第二次侵攻作戦が半ば暴走気味に西で行われ、決戦。ベルフ軍は又もマリア軍に大敗退し南進計画も先送りになる

ベルフ軍は戦後賠償と休戦協定でアリオスが駆り出され、多くの兵と資金を失い動きづらく成った理由がある



それから更に半年大陸戦争開始から2年半が過ぎた頃。ようやく一定の軍備と内政と整え
クルベルへの再侵攻が許可される

エリザベートはベルフの王都に召還され、皇帝と面談する


皇帝は王座に肘を突いて足を組んだまま話す

「クルベルへの侵攻を任せる。お前の好きにしろ」と

傅き頭を垂れたまま

「ハ、安んじてお任せあれ」とエリザベートはその命を受けた


「前回と同じく三千の兵と中級指揮官をやる、好きに使え。
恐らくそれでは兵が足りまい、それとは別に重装兵も三百出す。それからアリオスも参戦させる」

「アリオスを?」

「うむ、あれの軍も1千はある。全体司令官はお前でいい。アリオスは下に付ける、精精こき使ってやれ」

「はは」

非常に短い会談が終了して王座の間を出る事になる



大体皇帝ベルフの命はこんな物である、各地の司令官、指揮官に金物人を出すだけで
ほぼ責任者に任せるだけである
それが失敗しても咎める事も殆ど無く、特にエリザベートの様な能力も結果も出す将には寛大である


退出したエリザベートはそのまま長い廊下を歩き出す
それに続いて外で待ったクリスが彼女の後に付く

「如何でした」

「戦力は前回と同じ、重装兵三百とアリオスが1千連れて参戦だそうだ」

「これは頼もしいですな、色んな意味で」

「フン、そうだな、一番やりやすい将を付けられたもんだ」


そこへアリオスが図ったように女性仕官を二人連れて現れる


「どうも、やりやすい将のアリオスですエリザベート様」と挨拶した


「お前はほんと変わらんなぁ‥同じ五大将の一人だろうに」

「エリザベート様はエリザベート様ですよ。」

「他の連中は私を呼び捨てだがな」

「私は対等の立場と思っておりませんからね、やはり様をつけますよ」

「余り卑屈な態度もどうかと思うが。」

「で、やりやすい私めにやりやすい仕事でもありましょうか」

「ああ、お前の知恵を借りたい事案が2,3あるのでね、このまま部屋まで来てもらおう」

「わかりました」


二人は其々に着く従者を部屋の外に待たせ会談することになる


それは10分ほどの大まかな情報伝達と事案について伝えただけの簡潔なものであった
二人が部屋を出て其々の従者は二人の後ろに控える


「では今回はよろしくお願いしますよエリザベート様」

「それはこちらのセリフではあるがな」

「私は他の将と皇帝陛下に通しておきたい要望があるので、しばらく王都に滞在しますので、後ほど」

「分かったでは先に行かせて貰う」



と二人は別れ其々の準備に取り掛かる事になる






それからのベルフ軍の行動は早い、エリザベートは即日自己の騎馬隊を率いてクルベル方面へ向かう
各地から通知して南進計画を伝えつつクルベルとベルフの領地境界に軍を集結させる


この報はクルベル以下傭兵団にも伝わり、いよいよかと皆いきり立つ


「いよいよベルフのエリザベートと再戦という事になる。一月程掛かるだろうが
それまで皆生気を養っておいてくれ」

団会議でフリットに伝えられる

いよいよか、という意気の者もいるが、そうでない者も居る
複雑な両方の感情を均等に持っているのは事実だろう


「ま〜たあの女将かよ。めんどくせぇ‥」

「どうせまた私達が相手するんでしょうね」

「止められるがうちの団だけでしょうしね‥」

「どうでしょうねぇ‥今度は五大将の一人「知のアリオス」も居ますから」

「うーん良く知らないんだけど、前線での実績を聞かないわよね?」

「武もあるとは聞きますがこれまでの実績が占領地、領地の治世、女王マリアとの講和等、外交実績が
殆どですからね。ただ、国策その物にも関わっていて、いくつかの実績も上げていますし
かなり優秀な人物であるのは間違いないです」

「どんな国策?しらないんだけど」

「重装備兵は彼の発案ですね。それから闘技場。兵の育成システムを組んだのも彼かと‥また、
皇帝ベルフの知恵袋とも言われて居りますし、見えない所でもかなりあるのでは」

「前線に出て来る事もあるんだろ?将なんだし」

「自己の軍を1千程持っていますし侵攻作戦の類も担当したことも2度ありますがどちらも、包囲放置戦法で
戦い自体はほぼせず相手を降伏させるというやり方ですね」

「ベルフらしからぬ、ね」

「いずれにしてもめんどうなコンビですよね。この二人とは」

「うーん‥」

「まあ、あれこれ考えてもしゃーない、始まってみないと何もわかんねーし
俺らは兎に角、戦えるようにしとこうぜ。」

「ショットにしてはまともな意見ね」

「フン、じゃねーとあの女将に雪辱できねーからな」

「戦う気なのあんた‥」

「たりめーだ、1年あったんだ、前の俺じゃねーぞ、こんどこそ‥」

「今度は私達も本隊に加われるんだし、そういう覚悟はあっていいんじゃないかな」

「そうですね、何も一対一でやる必要も無いですし」

「ライナ任せじゃ僕らが不甲斐ないですからね」

「皆だって十分やれてるよ‥」


普段あまりしゃべらないクイックは自分のナイフの手入れをしながら


「なら俺達で一対多数の連携でもやってみるか?構成は揃っているからな」と言った

一同「え?!」

「猟犬は巨大な獲物を狩る時それをやる、俺達ならある程度練習すれば出来るだろう」

「おもしろそうじゃん」

「と、言ってもそう難しい事じゃない、難しいのは俺とイリアとロックだしな」

「や、やってみます!」

「うむ、じゃあ、明日から其々の武器を持って広場に集合だ。後はそう、ロックはナイフの方がいいな」




そう難しい事じゃない。という通りやり方自体は単純な物だ、だが相手からしたらたまった物ではない
戦い方だった

前で戦うメンツは2 中距離から1補佐1、後方から2に分け
案山子相手を人間に見立てて前衛が一人の敵の左右から上下、左右で攻撃が被らないように示し合わせて戦い
その隙を補佐が突き、後衛射手が撃つ、また、前衛が崩れた場合にも補佐が一対一での足止め等を受け持つ
其々が其々決められた部位の攻撃を担当して間断ない攻撃と味方のサポートをしながら連携するという戦法である

ただ、このメンツの場合ライナが著しく動きが早い為アドリブで合わせるのが難しかった

また

「うわああああ、めんどくせええええええ」とショットが叫んだが

「全力でやろうとするからだ、周りに合わせてセーブしろ、お前が勝つ必要は無い「誰かが」勝てばいいんだ
ついでにミスって味方の邪魔になったら全部崩れる、途中で剣を止められる程度の力配分でいいんだよ
そもそも、前衛は一番楽なハズだろ、後ろから撃つ方が遙かに難しいんだぞ?」

そうクイックに、ぐうの音も出ない程言葉で叩き伏せられ、しぶしぶ続けた



知将アリオス




それから丁度一ヵ月後、ベルフ軍は領土境界線の野営地から侵攻の行軍を始める
2〜3日後には決戦になるだろうとクルベル側も早めに出撃し陣を張ってそれを待った


クルベル軍三千、傭兵団二百
ベルフ軍三千、エリザベートの部隊百、重装兵三百、アリオス手勢1千


前回と同じような陣形、1千ずつ分け、右左中央に布陣しての正面決戦での開戦である

傭兵団も以前と同じく後方からの参戦、エリザベートの側面からの崩しに対応する用意がされた



しかし、いざ開戦となると事情が違った



中央最前線に百人騎馬隊が配置され中央突破を早々に仕掛けてきたのだ

これにはクルベル軍も驚いたがそうなっては対応するしかなく、両軍ぶつかり合う

戦闘は最初の一時間から苛烈だった、当然だろう。猛烈な火力を誇るエリザベートの部隊が正統戦法で中央突破を掛けて来たのだ
クルベル軍は工夫を凝らしエリザベートの突撃に子盾や槍、弓などで対応しようとするが
エリザベートには小細工レベルにしか通じずそれ自体どんどん叩き潰して百人騎馬と共に突破していく



後方に布陣し観戦を決め込むアリオスは馬上でエリザベートの突撃を見て呆れたような笑ったような表情だった


「いやはや、エリザベート様の強さは本軍主力に据えても有効ですなぁ」


となりに居たお付きの女性補佐官のキョウカが


「全軍の総司令官が自ら槍を持って最前線で戦う等非常識も程がありますが‥」と呆れ顔だ

「いいんじゃないですか、楽しそうですし」

「死なれては困るんですが‥」

「一応うちの子達を全部付けてありますから守ってくれるでしょう
そもそも一番攻撃力のある部隊を後ろに置いて指揮など無駄もいい所でしょう、所謂遊兵を作るって奴ですね」

「我々はいいんでしょうか‥」

「ここは平地ですけど、左右が川や湖ですしね、意外に左右に陣形を展開する広さがないんですよね
平坦な。そう、お城の長い廊下で戦ってる様な物ですから、
我々が無理に前に布陣するとかえって邪魔なんですよね」

「たしかに」

「まあ、それにエリザベート様が楽しめるのが一番ですよ、ほら」と指指す




「ハハハ!どうしたクルベルの鉄騎士とやら!名前だけの泥人形か貴様ら!」

大声で罵倒しながら槍斧で立ちはだかる敵兵を斬り捨てていくエリザベート



「活き活きしてますね‥」

「適度に運動していただいた方が我々も楽なんですよね、ストレスを溜めさせると後でこっちに八つ当たりされますし
‥それにまあ」

「?」

「百人騎馬やエリザベート様を止められる部隊とやらが向こうにもあるみたいですし。
それが出し難い状況を作ればいいと思いましてね」

「なるほど」

「まさか主力中央に割って入る事も出来ますまい。
数も二百となれば無理やり前線に出れば陣形を崩しかねませんし混乱の元です。
まあ、いずれ対応するでしょうが」


アリオスの狙いは完全に成功だった、両側面から少数部隊で突っ込んでくる相手ならクルベル側も
同じく傭兵団をそれに差し向ける事が出来るが

乱戦の中央に部隊を送るのは混乱の増大させかねないので
傭兵団への出撃が出せない状況にあった
普段から連携している統一軍であれば可能かもしれなかったが、別々の軍なのだ




が、それでもフリットはどうにかしようとしてクルベルの指揮官に直訴

「こちらの団全体は無理でも数人なら出来ましょう」と

フリットとグレイが中央前線に馬を駆って出撃クルベル主力の軍の前線に立つ




「悪いが、ここで止めさせてもらうぞ!」と前線で槍斧を振るうエリザベートに仕掛ける

「おう!、傭兵団の隊長か!少しは腕を上げたか!」言って応じるエリザベート

「期待に沿える程ではないよ」と剣を合わせる

「それは残念だな!」打ち返すエリザベート


そこにもう一人の騎馬武者が現れエリザベートに仕掛けた


「そういう訳だ、俺も参加させてもらうぞ!」とグレイも剣を振るう

エリザベートはその一撃も軽々と防ぎ


「構わんよ!名を聞こう!」

「副長のグレイ=サージェルだ!」


二対一の打ち合いは善戦しエリザベートの烈火の如き進軍はそこで止まる。
それは10分も続いただろうか


「クッソ!、二人ががりでもギリギリ互角か!」

「甘く見るなグレイ!全然向こうは本気じゃないぞ!」

「伊達に二度目ではないな隊長!」

それを見せてやるとばかりにエリザベートはグレイに槍斧を振り撃つ

「グッ!」とグレイは声を挙げてその一撃を防いだが、馬上でぐらつく

「まじか‥!、同じ振り、同じ速度で打撃力が段ちだ‥!」


「残念だったな副長!今ので7割くらいぞ!」


そこへ背後から声が掛かる

「姉上!時間です!」クリスが叫んだ

「応!」とエリザベートはそれに答え、即時馬を返して後退した


「何!?」とフリットとグレイは止まった、

そこに下がったエリザベートの代わりにベルフ軍中央主力が
入れ替わりに殺到してくる

「クソ!何事だよ」グレイは声を挙げてそれに応戦する

「ハハハ!悪いな団の二人!これも作戦でな!」そこから走りさるエリザベート

そこには先ほどまで居たハズの百人騎馬の兵士も居なかった




アリオスの策はこうだった、少数なら入れ替えられる、とし、前線で戦う5〜10人と後方のアリオスの自軍の兵を
古くなったパズルのピースを入れ替える様に少しづつ取り替える、古くなったピースは
休息と補充をしながら再編成、新品にしてから
またその穴埋めに取り替えるという作業を間断なく続け戦闘を只管続けるという物だった



戻ったエリザベートは百人騎馬と共に休息を取り、次に備え、再び前線に出るという次第である

エリザベートはご機嫌だった



「これは相手は堪らんな。向こうは連戦、こっちは交代しながらの戦い」

「まあ、こっちは統一正規軍ですし、私の軍丸ごと余ってますからね。一方向こうは全軍出して同数な上
予備兵は極小、更に例の傭兵団は正規軍ではありませんし、
こっちの真似はできますまい、先ほどの様に数人の武芸者を送り込んで来る事は出来ましょうが」

「実にいいやり方だ、出撃の度にこれぞという武芸者と戦えるしな!」

「ハハ‥まあ、精精楽しんでください、これをずっと続けますから」

「何?!ずっと?」

「ええ、昼も夜も、一切向こうを休ませません」

「ハハ!これは酷い」

「まあ、強いて挙げればですが」

「何だ?」

「他国からクルベルへの援軍でしょうかね」

「ああ、それが来るとこの策は成立せんな」

「ま、来ても精精百か二百でしょうが、その程度なら問題ないでしょう」

「うん?なんかやったのかお前、他国もそこまで数は少なくないはずだが」

「いえね、王都に居る間
「我々がクルベルを攻める間周辺国に南進してはどうですか?援軍に悩まされる事はありませんよ」と
皇帝陛下と他の将にアドバイスしまして。今頃多方面にも侵攻しているかと」

「抜け目ない奴だな‥」

「神聖国フラウベルト辺りに纏まった援軍を出されると面倒なのでね。兵力も強さも無視出来ない規模ですし
ですが同時に3,4の侵攻ならあちらも大規模援軍は出せますまい」

「これは決着は早いな」

「ええ、まあ‥野戦は‥、もって2、3日でしょう、その後は篭城するでしょうが、そうなった場合は向こうに立ち直る
きっかけを与えず速攻で終わらせたいものですが」

「重装突破兵も用意してあるからな。問題なかろう」

「でしょうな」



この間断ない戦闘はその通り続いた。クルベルもベルフの狙いに気づくが「取り替えられる兵」は余りに過小
しかたなく陣形の後ろと前を少しずつ入れ替えつつ継続するが事前に準備していた者とそうで無い者の差か
綻びも多く前線を崩す結果にもなる

そこを突いてベルフ側はエリザベートの隊や重装兵を逐次投入し傷を広げる

それにも当初の様に団のメンツで兎角武芸に秀でた者を投入し穴埋め対応するが
エリザベートや重装兵を足止めするのが精精であり
又、かならず2〜3人で組んで戦わざる得ない為団員の個々に戦える者

フリットらも著しく疲労していった

また、ライナ、イリア、ロックは16、7歳には成るが若年兵であり不眠不休での戦い等厳しかった

特に厳しいのはイリアで神聖術での治療も掛け持ちであり、自ら志願して治療に当たったが
その日の夜には無理が祟り倒れた
これはと思いフリットは三名に街への撤収と休息を強制的に命じて下がらせた


イリアをベットに寝かせ、ライナとロックも自分の部屋に戻る気力もなく無言のまま床で寝てしまった






戦闘は一昼夜続き
翌朝も相手だけは勢いが継続する、当然の事ではあるが

エリザベートの隊は左翼陣に加わり再び突撃と突破を繰り返す


しかし
そこで小さな事件が起きた




突撃するエリザベートに対応しようと傭兵団の幾人かの、前線に送り込まれた剣士の一人に

弟クリスが敗れる

腕を切られ武器を落とし落馬したのだ

近くに居たエリザベートは咄嗟にその相手とクリスの間に馬を割り込ませ弟を守った


「大丈夫かクリス!」エリザベートは叫ぶが

「大丈夫です姉上、腕をやられただけです!」そう彼は返し立ったのでエリザは安堵の溜息を漏らした

「すみません下がります」と馬に乗るクリス。

がエリザベートはただではすまない

その馬上の相手と対峙しにらみつけた


「弟に勝つとはやるな何者だ貴様!」

「バレンティア=フォン=ロッシュブルグ。傭兵団の隊員の一人よ」


馬上で鮮やかな赤い細剣を構え、右手全体を覆う様なガントレットを着け
金と銀の髪を靡かせる凛とした美少女は答えた


「ほう‥始めて見る顔だな。その傭兵団は幾人並で無い武芸者を飼っているのか」

「さあね、数えるのに時間がかかるくらいかしら?」

「フハハ!。まったく羨ましい部隊だな。野に置くにはもったいないな」


エリザベートは自部隊のメンツが一人また一人と後退して減っていくのを背中越しに確認していた


「お前ともやってみたいが、時間切れの様だ」

「私は貴方とはやりたくないわね。武器の相性が悪すぎる」


と、バレンティアは細剣を掲げて見せた


「たしかに、これは不公平というものか、次からは普通の剣も持って出撃するとしよう」


槍斧と細剣、立会いならまだしも馬上斬り合いとなればとても対等な条件とはならない

が、エリザベートは馬を返して撤退すると見せかけ
槍斧を首を狩らんばかりに横切りで浴びせる

しかし、その一撃をバレンティアは下から上への突きを槍斧の先端に突き上げ軌道を反らして防ぐ
勢い余った槍斧がバレンティアの頭の上を通過するが。それが分かっていたかのように
微動だにせずバレンティアは涼しい顔でやり過ごす

「あら?やっぱりやる事にしたの?」

とバレンティアはゆっくり瞬きをする、その両眼を開いた途端
彼女の気質と眼光が一変する

「いいや、ただ知りたかっただけさ。どのくらいの強さかな」

「そう‥で、どうなのかしら?」

「お前が団では一番だな。あの隊長より一枚上だろう」

「光栄ね」

「まあいい、再戦の時を楽しみにしている」

と言うが早いか馬を走らせ下がっていった



バレンティアは溜息をついてやれやれといった感じだった

「とは言っても相打ちするのが精一杯な差かしらね‥」



自陣に戻ったエリザベートにクリスが声を掛ける

「すみません姉上」

「気にするな、どの道アレとやる時間は無い」

「ですが‥あの女とは避けてください」


それはクリスにしては珍しい言い様だった


「知り合い、か?」

「いえ、そうではありませんが、危険な相手です」

「たしかに強いだろうが‥」

「あの女の剣、ご覧になりましたか?」

「ん?鮮やかな赤の刀身の細剣だが‥」

「あれは、塗ってある訳ではありません。後からああなったのです」

「まさか‥」

「そうです「数百の血を吸ってああいう色に成った」のです。そして大陸でそれを持っているのは私は一人しか知りません」

「馬鹿な‥あれがアーリアか!?‥だが、名が‥歳も大分若いぞ?!」

「はい、アーリアは生涯で一人だけ弟子を取りました。それがおそらく‥」

「あのバレンティアという娘か」

「あの剣「集血のレイピア」という名剣ですが、それを死別の際、託されたと聞きます。」

これにはエリザベートは笑うしかなかった

「ク‥ハハハ!」

「全くビックリ箱の様な団だな!次から次へと面白い奴が出て来る!」

「ですから姉上、他の連中はともかくアレとはまともにやりませんよう。イザとなれば相打ちにでもしてくる相手です」

「ああ、分かった分かった!。全員引き出すまで続けたいしな!」


ふう、と溜息をついてエリザベートは心を切り替え、冷静になる、そして戦う双方の戦場を眺め寂しそうに言った



「だが、そう長くはもつまいな、残念な事だ‥」



この戦いは誰の目から見ても一方的にベルフ側が優勢であった

既にクルベル側は疲労と劣勢、士気の低下は明らかだった

実際、クルベル側だけが一方的に死傷者を増やして行き、この日の昼ごろには3割近い兵を失う事と成る


更に悪くしたのは南方の神聖国フラウベルトから来る援軍のアテが外れた事にある

当初開戦前「1千程度の援軍を送る」と宣言していたため、それが来ればなんとか成るという目論見だったが

この時期に来て、それが「200名程度に圧縮する」と言って実際200名送ってきた為だ

「どういう事か!」とクルベルの幹部は怒ったが、継いでベルフ軍が多方面南方侵攻を行っている事を知り

「多方面の国への援軍も送らねばならぬ為」と言われ。クルベル側は愕然とした

完全に戦略と戦術両面でアリオスに手玉に取られたのだ。


もしこの方面に女王マリアの庇護があれば、こうは成らなかっただろう。が

アリオスはそれを封鎖する為に銀の国との時限式休戦協定を結んでいたのである

マリアはアリオスの狙いを分かっていたが、マリアにとっては自国の民を守るのが優先であり

わざわざ大陸全土の国家に手を差し伸べる理由も無かったのだ


ただフラウベルトの援軍により僅かだが軍全体に一時余裕が生まれ。
その日のベルフ軍の攻撃を凌ぎきって
三日目に戦争は突入するまでに至る

僅かな余裕、の中、傭兵団も全軍一時後退して3時間程休息が出来たがとても足りるとは言えなかった

そのまま三日目になっても後はズルズル崩されるだけなのは誰にも分かっていた

クルベル軍はここで城内に全軍撤退し、篭城戦の相談をしていたが。それで守れるかも怪しい状況であり
フリットは自らクルベル軍の指揮官に具申し
篭城前に、最後の一手を打たせて欲しいと願う。


それで上手く行く確率は低いが何もせぬ訳にはいかなかった






三日目昼前、傭兵団は全隊の残り兵力180を持って
ぶつかり合う両軍の右から回ってベルフ軍の左翼中ほどに側面突撃を掛ける
エリザベートの百人騎馬の本来の戦法をそっくりそのまま真似て敢行した



それを見逃すエリザベートとアリオスでは無い
エリザベートと百人騎馬はソレを予測してフリットの隊の前に立ちはだかった


「万策尽きたか!隊長!」

エリザベートはいち早く突撃してくる

「僅かな可能性に掛けるまでよ!」と応じるフリット


一年前と同じく、双方の精兵の私兵となっての戦いだった

だが、傭兵団のあのメンツはこの時の準備をしていた

エリザベートとフリットの打ち合いを受けると思われたが1合だけしてフリットは即時引いたのだ

「な?逃げるか!?隊長!」

そう叫んだエリザベートの眉間に矢が飛んでくる

「チッ!」とそれを槍で弾き瞬間彼女の馬の足元に影が滑り込み、馬の足を斬った者が居た

馬が嘶き倒れる、エリザベートは咄嗟に飛び降り構える


その者と対峙するエリザベート

「また貴様か!‥」

そう、ライナである、ある意味当然の選択だろう、一対一でやれそうな者をぶつけただけの事だ

が、そうでは無かった

「悪いが狩らせてもらうぜ!」

「貴女が落ちればそれで終りよ!」

と左右からバレンティアとショットが突撃し、上と下に切り分けて剣撃を放った

エリザベートはそれを巧みに槍斧を操って弾き返すが、即時 体の中心目掛けてロックの投げナイフが襲う
彼女はソレの軌道上に柄を滑り込ませ弾く、しのいだと思った瞬間 顔面目掛けて又も矢が襲う
顔を背けてギリギリでかわすが、バランスを崩す
その隙にライナが駆け突きを放つ

エリザベートは飛びのきながら槍を返して弾き距離を取りながら返しの槍を打ち込むが
それが「見えない盾」の魔法でガンッと弾かれる
その瞬間左右から追い縋ったショットとバレンティアが上下に斬りを放つ。

「これは避けれぬ!」とエリザベートは体を半回転させながら軌道から逃れるが二人の手に手ごたえがあった

頬と脇腹に剣が通った

「クッ!」と声を挙げながらそのまま倒れるエリザベート。

そこにライナが突撃する一貫の終りかと思った





それの前に立ちはだかってクリスが剣を出して止めた

続けてエリザベートの周りに群がる団員達にも5人の女騎士達が飛び込み、壁を作るように立ちはだかる

「なんだこいつら!」

「失敗か‥!」立て続けにショットとバレンティアが叫ぶ

ライナと剣を合わせたままクリスが怒鳴る

「姉上!下がってください!、この多数陣には一人では無理です!」



もしもの事態、の為にクリスに預けてあったアリオスの近衛騎士「女人隊」である、それを素早く動かし姉を守ったのである

エリザベートは槍斧を杖にして起き上がり構えてジリジリ下がる

完全に彼女の油断だ。2,3人の武芸者なら、と一人で猪突したのを完全に逆に突かれた、流石にこの時の彼女は
クリスに謝意を述べて下がった

「すまぬクリス!‥」と別の馬に乗って後退していった



傭兵団の目的は完全に崩れた

初めから敵陣の崩しを狙った部隊の突撃では無く、エリザを引き出し、

全軍総司令官の首を取り、戦局を一気に逆転するのが目的だった


こうなってはもはや戦闘を継続する意味も無く
傭兵団は即時撤収し
「最後の一手」は失敗となった

後数秒あれば。のギリギリの結果だったが、それが成されなければ意味など無かった




エリザベートは後方陣に戻り即時手当てを受けた
左目の下の頬を僅かに。右脇腹を10センチ斬られた。彼女で無ければ致命傷だったろう

アリオスは一連の流れを見て

「ご無事で何よりです」と声を掛けた

「ご無事では無いがな‥」エリザベートは自己の愚かさに沈んでいた

「いえ、向こうのやり方が上手かっただけですよ。こちらはそれにまんまと乗ってしまった
見抜けぬ私にも責はあります、自分を責めますな」

「だが、お前は自分の近衛を、私に付けたろう「こういう事もあるだろう」と」

「‥偶然ですよ‥」

「嘘付け。」

「いやまあ‥戦局が不利になれば、起死回生の一撃を打って来る、とは思いましたがね‥」

「そらみろ。嘘つきめ」

「エリザベート様にはかないませんな」

「フン‥これで当分貴様には頭が上がらんな‥」

「いえいえ、これからも踏みつけてくださって結構ですよ」

「お前、変態か、クッ」と笑おうとしたが傷が痛んだ 「いててて」と脇腹を押さえる

「いけません、早く寝室に!」即座周囲の者に運ばせる指示を出す

「すまんアリオス‥以後の指揮を頼む」

「お任せあれ」


続けて、彼女に付いたクリスにも去り際に礼を言われる


「ありがとうございますアリオス様」

「どういたしまして」

と短く二人は交わした


「さて、私の方はまだやる事が多いですな〜。特に2つが面倒な‥うーん‥」とアリオスは悩み顔だ

「アリオス様、今後の指示は‥」彼のお付きのキョウカが尋ねる

「ええと、とりあえずエリザベート様は負傷、指揮は私が引き継ぐと告知して、以後は従ってもらう様に。と
それと「うちの子ら」を全員収集、半数の5人は引き続きエリザベート様の周囲に気を配ってください
向こうは即時撤退、篭城するでしょうから攻城戦の用意と重装備兵を即出します
後で、クリス殿を呼んでください。とりあえずそんなもんで」

「はい」とキョウカはその命を伝える為に離れた













一方、「最後の一手」が失敗に終わったクルベル側はアリオスの予想通り。即時城内に撤収
篭城戦の準備に入る。

傭兵団も全軍撤退となり、メンバーは旧官舎に戻った
篭城戦となれば彼らに余り用は無く、恐らく狭い門の取り合いになり人数が多い必要はなく
まず、自分達の隊員の休息を取らせた


しかし

この時一同を驚愕させる策をアリオスが仕掛ける


クルベル軍が城に引き上げるかどうかというタイミングより早く
ベルフ軍は総攻撃をかける
重装突破兵も即時最前線投入
城門閉鎖もままならず、そのまま門前の橋で大乱戦になる

「休ませるとこれまでの作戦の効果が薄れるので。こののまま続けさせてもらいますよ」


この際、重装備兵300を100ずつに分け、三隊交代で城門攻略に逐次投入
それを盾にして弓と火矢を交互に浴びせかける

それを見守るアリオスの元にクリスが呼び出され話しかけた

「御呼びと聞きましたが?」

「ああ、どうもすいません、クリスさんの怪我はどうです?戦えますか?」

「え、ええ、それなりなら‥」

「エリザベート様は動けませんので百人騎馬の指揮をお願いしたいのですが」

「構いませんが‥我々も攻城戦に参加でしょうか?」

「いえ、ここは2〜3時間で落とします、その後の事をお願いしたい」

「その後?‥」

「はい、城を落とすと同時に、百人騎馬を率いて、南側に逃げる敵を、特に例の傭兵団を追撃して頂きたい」

「な、まさか‥」

「はい、開戦前、エリザベート様に頼まれたいくつかの事の一つです。この状況で無理にやる必要も無いんですが
やれるだけはやっておきたいので」

「しかし姉上無しでは厳しいのでは、私では役不足かと」

「ええ、なので私の手勢一千も全て南側進軍に即時、全て当てます。うちの子らも残り5人貴方に付けます
ついでに言えば足止め出来れば十分ですから、クリスさんが無理に戦う必要はありません」

「わかりました‥やってみましょう‥」

「申し訳ありません、怪我人を駆りだして。」

「いえ、これは私の願いでもありますし、やらせてもらいます」

「では、2時間程度しかありませんが、休息と1時間で用意を」

「はい」とクリスは即座に動く


その予想通り、ベルフ軍は力押しで最初の一時間で城門を突破
著しい指揮の低下と疲弊のクルベル軍では重装備兵の突破を防ぎとめられなかった
が、後発参戦のフラウベルトの兵は今だ活力があり、それを必死に押し留めた


せっかく一時的にでも休めると思った傭兵団も全員叩き起こされる
フリットは即時国からの出立の指示を出した

「おいおい、この国捨てるのかよ」とショットが言ったが

「我々の戦いはまだ続く、ここで命運を共にするのが最終目的ではない」と言い従わせた

とは言ってもそれも容易ではない
荷物を纏めて、非戦闘員も3割居る、この早い判断でもギリギリのタイミングだろう
それだけアリオスの策は兵は神速を尊ぶを体現していた

アリオスの予想通り、更に一時間後にはベルフ軍の兵が城になだれ込む
既に数の上で主軍だけで、2800対1200、更にクルベル軍の半数以上の兵はまともに戦える状態ではない

城の占拠に更に45分でカタが付いた。そこから重装備兵が街にもなだれ込み、アリオスの無傷の兵と共に占拠
ここで、準備を整えたクリス副長の代理指揮する百人騎馬が南側街道への城門へ向かう

しかしここでフラウベルトの残り170の兵が街と南門の守備を展開し、一時乱戦になる
せっかく援軍に来たのに何も出来ぬでは申し開きも出来ぬといかにも武人らしい考えで必死の防衛戦を展開した


これの鎮圧に無駄に一時間近く掛かり、フラウベルの軍は鎮圧された際、残った兵は20名だった

傭兵団はこれのおかげで、どうにか南へ脱出に成功する

が、クリス率いる百人騎馬がそれを追って出撃。更に10分後、用意も半ばにアリオスの軍も300、3隊に分け出撃
アリオスは自らの手勢は100のみ残し南方側街道に移動陣を敷きながら全体指揮を取る
その中から斥候、早馬、用意半ばの物資の配送馬。を組織して、各隊との連携と情報伝達を構築する

南に出した追撃隊と城の占領政策、戦後処理を同時に行った

「ほんと過労死しますよ私‥」


落延びて‥



傭兵団は南街道を真っ直ぐ南進した。このまま進めば中立地域やフラウベルト領内方面に入る、それを優先した
が、非戦闘員もおり、更に疲労もきわまっており、足が速いとは言いにくかった

クルベル陥落から翌日明け方。最初に傭兵団に追いついた百人騎馬がそれを見かけて即時突撃を敢行

「我々に追撃隊だと!しかも百人騎馬?!」

これには流石に面食らった。が、フリットとグレイは即時馬を返し、それを迎撃しつつ味方を守りながら
後退指示をする。打ち合いながらズルズル下がるように撤退を図るが並の相手では無い
それは亀の移動並に遅い

その情報をいち早く受け取ったアリオスは残りの各隊に伝令を飛ばし、援護に向かわせる、自らも陣を畳んで後発する

この辺りのクルベル南領土は境界線まで街道、丘、森、川等があり軍の展開には適さないが
少数同士となれば通路での戦いになり、守る方、撤退戦を展開する傭兵団には比較的やり易い
また、百人騎馬はたしかに強敵だが、軽症のクリスが指揮のうえ、エリザベートは離脱している
いつもの強烈無比な火力は無い、が
この時点で傭兵団側もまともに戦えたのは80名程とフリットとグレイだけであり苦戦した

「最後まで一秒たりとも休ませないつもりか‥」と流石のフリットも歯をかみ鳴らした

それが2時間も続いた後、報を聞きつけ駆けつけたアリオスの分隊300が百人騎馬に加勢
このままでは領土境界線までもたぬと考えたフリットは街道に面した西森に味方を逃がす
せめて馬だけでも封じるしか手が無かった

「バラバラでもいい、南へ逃れろ!」


指示を出し自らは押しすがる敵を叩き伏せながら下がる

こうなると完全に狩る側と狩られる側になる。

いかに個々の武芸の秀でた傭兵団でも各個撃破を繰り返しながら逃れるしかなかった
それでも森へ逃れたのは効を相した
ベルフ側の追撃隊の馬足も止まり、歩兵での追撃に切り替える

どうにかそのまま非戦闘員と負傷兵は離脱に成功する
我々も、とフリット達も思ったがそこへ更にベルフの別隊が次々集結する
半ば半包囲の状態に陥り粘っていた傭兵団の兵達も次第にやられ始める





ここで

「ここが最後の粘り時だなぁ」とショットら、例の6名が最前線に躍り出る

「比較的休ませて貰ってたからね、精精働きましょうか」と細剣を抜くバレンティア

「フリット団長、下がってください」とロック

が、フリットはそうはいかない

「馬鹿言え!お前らだけで何が出来る!」と叫んだ

「それはこっちのセリフだ、そんなズタボロの奴が一人居ても邪魔なんだよ、下がれ」そうクイックは厳しく言い返した


クイックの言は全く持って正論だ、今の自分では足手まといもいいとこだ
それを理解しているが責任者として逃げる訳にはいかないのが半々である

それが分かったグレイはフリットの背後から忍び寄り延髄に刀の柄を当てて失神させる
それを即時抱えて走り出した

「時間稼ぐだけでいい死ぬなガキ共」とグレイは言った


「誰が死ぬかよ。俺の黒剣士伝説は始まったばかりだぜ!」ショットは迫る敵兵を切り伏せる

「何そのダサい伝説‥」と言いつつバレンティアは神速で3人突き殺した

前線で斬り合う二人に迫る兵を即座弓とナイフを放って射殺すクイックとロック。

その二人に走る敵兵を飛び回る様に駆け切り倒すライナ

皆に援護魔法と治癒を掛けるイリア

かねてから連携練習を重ねてきたこの6人の動きが完璧と言って良かった


ベルフの700人近い兵は前に進めなかった程だ

この集団連携の足止め戦は20分稼いだ、が物量に対して補給が無くそこまでが限界でもあった

まず30本ありったけ持ってきたロックのナイフが切れる。彼は双剣を抜いて継続しようとしたが

「お前は先に下がれ、連携を乱す」クイックはまず先にロックを離脱させた

次に前線で疲労が極まったショットを離脱支持を出す

「アホぬかせ、まだやれるぞ!」とショットは固辞するが

「前で倒れられると迷惑なんだよ」と従わせる

そこからバレンティアも次に下がらせる。が彼女はクイックが何をしているのか分かっていたので

「よろしくね」とだけ言って離脱した

ライナはその動きと強さは一向に衰えず一人で前線で切り捲っていたが

イリアは直接戦闘は避けたが、魔法援護の連続で肩で息をし始めていた

クイックの持ってきた矢も残り20無い

そろそろだな。と感じて 「お前らそろそろ引くぞ」と声を掛けた



そうはならなかった。クイックが何をしているのか見抜いていたクリスは
アリオスから預かった「女人隊の5人」と共にライナの前に出で襲い掛かった

クイックは「チッ!」と矢を同時に2本掛けて引きライナに群がる敵に放って援護
一人の足を捉えて戦闘不能にしたが、もう一本は避けられた
同時に襲われたライナはやられるか!と思ったが全ての剣撃をすり抜けて一人切り倒して横にすり抜けた

「な?!!」と周囲から声が挙がる

ライナはただそれを振り向いて見た。が、それを見た者は硬直した。

まるで別人の様な冷たい眼と表情に


クリスにはそれが分かった。何者なのか知っているのはここではクリスとクイックだけだ

「スラクトキャバリテイターの本性‥」

こうなってはまともな武芸者でも相手にならない。クリスは


「全員かかれ!バラバラに戦っては負けるぞ!」と全兵を動かし、負傷した女人隊の二人を抱えて下がり、後を物量に任せる

「マズったな、読まれたか、仕方ない」とクイックは特注のナックルガード付きのナイフを二刀構え

イリアの前に出る

「イリア、ライナに援護魔法を掛けたら離脱しろ、後は俺達が時間を稼ぐ」

とだけ言って群がる兵達に立ち向かう


彼の狙いは明確だった、集団陣で時間を稼ぐ、抜けても全体戦力の低下が少ない者から一人、また一人と離脱させ逃がす
最後まで自分が残り、自分も逃げる「つもり」だったが前衛が掴まる、ここで目的は崩れた





ライナは想像を絶して強かった。襲い来る兵を迎撃等しない

自ら飛び掛って次々首を刎ねる

四方八方から繰り出される剣や槍をまるで影がすり抜けるようにかわし、相手を切り刻む
その倒し方も完璧だった

深く切ったりはしない、頚動脈や手や足の鎧の無い部分肘の裏、膝の裏、の繋ぎ目を
表面だけ切断して戦闘不能にしつつ
自分の速度を維持して
且つ、武器の磨耗を極力減らして戦う、切って骨に当てず、決して打ち合わず

打ち合って武器が壊れたらそこで終りだから


だがそれがいつまでも続くわけではない、じょじょにだが、苦し紛れの反撃の中、ライナ自身も刀を受ける


が、声も挙げず、表情も変えず、戦闘を継続し続ける


それが、クイックの狙いをまたも崩した

イリアは下がらず、ライナが受けた傷に治療魔法を掛け続けたのだ

彼女がライナを置いて逃げる等出来なかったのだ


クイックはそれを怒ろうとは思わない、今の彼にはそれをどうこういう暇も無い。ただ、一人でも多く
逃れる事しか頭にない
彼は「そういう訓練」を受けてきた者だからだ



そのうちその均衡も崩れる。イリアが力尽きるまで魔法を掛け、倒れ、ベルフ兵に捕縛される


その瞬間クイックは下がる、それに群がる兵に両手のナイフをクルリと返して持ち替え投げつけ
二人絶命させる

走りながら弓と矢を拾い。残り全矢、神業の速度で打ちつくす
更に、最後の残り四本の矢を同時に弓に掛け追い縋る兵にの眉間に正確に当てて倒した
最後にその弓すら捨てて、即時森の奥に姿を消した



ライナは負けなかった、すでに一人で50人は戦闘不能にしただろうか
もはや周りの状況など見えて居なかった


動けなくなるまで、噛み殺し続けるだけだった

が、そこで、クリスは捕縛したイリアに剣を突き立て叫ぶ


「そこまでだ!お前の仲間も捕らえた!仲間の命が惜しくないのか!」と脅す


ライナはそれを無表情で見て、止まる、その場に剣を投げ捨てて、即座糸の切れた操り人形の様にその場で昏倒した



クリスは安堵の溜息をほんとうに心からついて座り込んだ、やっと「終わってくれた」としか思わなかった






そこへ本陣、アリオスがたどり着く。

一連の報告を聞いた後、死体と負傷者の回収の指示を出し
即時撤収の準備を始める。本当はそっとして置きたい心境だったが
クリスに声を掛けた

「フラウベルトの軍が逃れた者の保護に軍を出してきました。今は疲れているでしょうが、戻りましょう」と

クリスは黙ってうなずいた。その次に呟いた 「なんて戦いだ‥」と




ベルフ側。死者128人、負傷225、小規模戦闘の追撃戦として前代未聞の被害である。
まさに「なんて戦いだ」である



一方傭兵団は死者3 負傷77.「戦えた者」全員が負傷か死亡という悲惨な結果である




その後、フラウベルトの出した援護軍に庇護され傭兵団の殆どがそのままフラウベルト側に向かった

中立地域とクルベルの境界線手前でショット、バレンティア、ロックは残りの3人を日が暮れてもずっと待った
が、誰も帰らなかった



夜になって全身、自分と斬った相手の返り血で真っ赤になったクイックがフラフラと現れる

3人は今にも倒れそうな彼を支え、張ったテントに連れ治療した

そこで一連の事情を聴く事となる



ショットはクイックを殴り飛ばしそうな勢いで

「お前が!‥」と言いかけ そこで止まった

クイックは全身傷だらけの血だらけ、弓も矢もナイフも使うべき全ての武器を失ってあらゆる手段を尽くして
今に至っているのである。誰が彼を咎められようか

それを想像してショットは冷静になった

「そうか、イリアとライナは捕まったか‥」とだけ言った


「向こうは、俺の狙いを看破したようだ‥エリザベートの弟クリスとか言ったか‥、たぶん元同業者だな
俺の見通しの甘さだ‥すまん」とクイックは謝罪を述べた

「貴方は味方の被害を最小限に留める策を打ったわ、間違いではないハズよ」

「皆、フラウベルトに行くようです‥僕らも行きましょう」

バレンティアとロックは言ったが‥



捕まった二人はどうなるのか?等彼らからは言えなかった、想像したくもない事だ



がクイックはそれを察してか

「可能性は五分五分だが‥殺さんかもしれん‥」

一同「え?!」

「殺すつもり。なら他にやりようはあるはず‥向こうもそこまで被害を出す意味がない
攻撃も全て、頭から下を狙っていた‥弓も出さぬし」

「初めから僕らを捕らえるのが目的?!」

「なんでだよ‥」

「わからぬ‥が、あるとしたら‥。自分の手駒にするかだろう」

「エリザベートの指示かしら‥」

「ありうるな。」

「自分と戦える武芸者にやたら固執気味でしたし」

「けど、イリアやライナがそれを受け入れるかな」



「つまんねー意地張らないでそうしてくれりゃいいけどな‥

生きてりゃまた、どっかで会える

それが敵でもいいさ‥」



「ショット‥」と他の3人は同時に言った

皆気持ちは同じだったかもしれない







それから一月後、傭兵団はフラウベルトに雇われる事となる。彼らの勇名は
多くの者が知っていたのだから当然かもしれない



だが、その中。残った年少隊の4人は別れる事となる、もう年少ではないが



「悪いな、俺は無能な国に雇われるのも、負け戦も、もう沢山だ。」と言ってショットは団を抜け、単身旅立つ


傷が癒えたクイックも


「俺はライナとイリアのその後を追う、一人の方が潜入するにも動き易いんでね」そう彼は言い残し出て行った



「僕は他にアテも無いしここに残りますよ」

「私も残るわ、フリットには借り貸しがあるし。行くとこもないし」

結局ロックとバレンティアだけは団に残る事になる




其々の決断





一方、ライナとイリアは手当てと休息を受けながらも、アリオス、エリザベートらに移送されて
ベルフ本国の王都の牢で過ごす事になる






エリザベートとアリオスは二人の対応を協議したが

エリザベートは処刑をすべきでないと思っていたが、陛下次第だろうとやや、沈んだ感じだった

アリオスも同意見である


「出来れば私の元に欲しいが‥従わんだろうな‥」

「流石にあの赤髪の子は‥認めさせるのは難しいでしょうな‥ずっとおっかない眼をしてますし」

「ならせめて、殺さぬようにしたいが」

「うーん、そうですねぇ‥単に処刑を避けるだけなら‥ええ」



「あの二人は私に任せてくれませんかね?」言ってアリオスは以降の事を任せるように頼んだ

「何か策があるのか、お前がそう言うからには」

「ええ、まあ、それを認めされるくらいの貯金はありますから」

「陛下にでも?」

「と、いうより、得意の口八丁で何とかして見せますよ」と笑って返した

「いい手が私では何も浮かばん、お前に任せるよ」


少なくとも私よりは、知恵もあり、交渉も上手い
エリザベートはアリオスに託した。そして彼はその期待を裏切った事もないのだ
だからそういって任せた





その後アリオスは皇帝に面会その場で



「なに?処刑するなと?」

「はい、殺しても、ただ、我々の溜飲が下がるという程度の事であまり利益には成りません」

「ではどうするのか?」

「はい、この際は我々が受けた被害を体で払ってもらいましょう、と思いましてね」

「娼婦にでもするのか?」

「いえいえ、あれはエリザベート様から聞いたところによると「スラクトキャバリテイター」という
非常に稀な才能の持ち主だそうで、一生に一度見れるかどうかの魔剣みたいな娘だそうで」

「ほう‥」ここで皇帝は興味を惹いたようだ


「そこで、闘技場に出しては如何かと、何しろエリザベート様も苦戦する程の剣士。
これは客が呼べると思いましてなぁ」

「フン‥いいだろう、お前の好きにしろ」と如何にも面白そうに笑う皇帝

「で、もう一人の神官戦士の娘ですが。神聖術も棒術も拳法も出来ますし頭もいいですし、更になかなか美しい
是非とも私めが欲しいと思いましてな〜。

‥‥ダメですかね?」

チラッと皇帝に懇願してみせる

それが、妙に皇帝は面白かったらしく、大笑いした後

「貴様の今回の武功の褒美が敵の女とは。全く笑える奴だ。フハハハハハ!」

「私美しい女性に目がありませんので、それは最高の褒章ですよ?」

「分かった分かった好きにしろ!」

「はは〜有難き幸せ」

と丸め込んだ




「と、いう次第です」

アリオスはそうエリザベートに報告した

「全くお前という奴は‥まさかほんとに丸め込むとは‥」

「まあ、あの子らへの交渉はこれからなんですけどね‥とりあえず、殺さずには済みましたが」

「ふむ‥‥従うのかねぇ‥」

「うーん、交渉ですから‥。そうせざる得ないように出来なくはありませんけどね」

「おいおい‥追い込んで自殺でもしないだろうな?」

「さぁ‥こればかりはやってみない事には‥」

「お前な‥」

「いえ、冗談です。子供を追い込む趣味はありませんし。なるべく穏便にやりますよ」

「イマイチ信用ならんのはどうしてなんだろうな?」





その後のアリオスの行動だが。まず拘束されているライナの元に自ら出向き牢に入った

そこには足に枷を嵌められ、床と枷に鎖が嵌められ一定の距離は動けるような拘束がされていた


「どうもライナ=ブランシュさん。アリオスと言います」と軽い挨拶と自己紹介をした

「あなたが‥あの、五大将の?」

「そう見えないでしょう。」

「ええ」

実際アリオスはそう見えないのだからしかたない
そこそこの年齢のハズだが五大将とは思えぬ威厳の無さだ
たとえて言うなら、一日中部屋に引き篭ってる若い変人学者のような感じだ



「そういえば食事を取らないんですってね」と言って

粗末なテーブルに置かれたままの食事
その席に座り、アリオスはそれを3口程食べた

「毒は入ってませんよ。どうぞ」

そんな物はいれませんよと示して見せる

ライナは彼の対面に座ってそれを食べ始める、それでどうやら安心したらしい


「なんで殺さないの?」

「無駄な事は嫌いなんでね」

「で?どうするつもりなの」

「ええ、貴女は剣がお強いそうで。しかも若く、女性です」

「はぁ‥」

「そこで貴女を闘技場に送ってはどうかと意見がありましてね。きっと人気者になれますよ」

「殺し合いをさせるの?回りくどいわね」

「ですが儲かるんですよね」

「くだらないわね」

「ご尤もですが。そこにはいいルールがありましてね。一定数勝つと褒美として無罪放免という」

「正気?‥」

「貴女なら余裕でしょ?やってみませんか?。ここで一生過ごすよりずっと有益です」

「殺し合いが有益ね‥」

「どうせ、殆ど犯罪者や戦争罪人だらけですよ、こういっちゃなんですが、貴女もうちの兵も百は殺してますし」

「そうね‥今更か‥」

「ついでですが。もう一人の子も悪い様にはしません。それでどうでしょうね」

「別にお願いしなくてもいいんじゃない、立場はそっちが上なんだし」

「まあ、そうなんですが。手抜きされてあっさり死なれても困るのでね」

「なるほど、納得。私が勝つ内はイリアも無事って認識でいいのね?」

「はい、そう思って貰って結構です」

「分かった全力を尽くすわ」

「ありがとうございます」


「それで、イリアの処遇は」

「これから交渉ですが。牢に置いても外に置いても、恨みに思う者も居るかもしれませんので
私のお付きの近衛という事にします。それなら誰も文句はありますまいし、殺されはしないでしょう」

「イマイチ信用ならないわね」

「ハハハ、エリザベート様にもさっき言われましたよ。何なら誓約書でも書きましょうか?」

「もういいわ‥どうせ選択権は無いんだし‥」

「じゃあ私の部下にというのも‥」

「それなら今すぐ此処で死ぬわ」

「ですよね」



続けてアリオスはイリアと会談する

彼女を牢から出して、身だしなみを整え、自分の部屋に招いての話し合いである


「と、いう訳でして、イリアさんは私の近衛として働いて貰いたいのですが」

「普通に開放してくれればいいのではないですか?。捕虜交換とかで」

「そうなんですがね、向こうは国じゃありませんしねぇ‥貴女達は主力メンバーという扱いにこっちでは
なってまして。公開処刑にしろ、て意見が出るくらいでして‥」

「普通に隊員の一人なんですけどね‥」

「ええ、分かっていますが。こっちから見たらそうでは無いんですよ」

「はあ‥」

「それに捕虜の解放と言っても賠償金額も金二千くらいに成りますし。
それに見合う捕虜なんて何人分なんですかね、そもそもあの傭兵団にそんな金だせないでしょう
それくらいの扱いに成ってるんですよ草原の傭兵団の主力メンバー、という名前は」

「二千ですか!?」

「ええ、最低ね。それくらい出さないとこっちの兵や将、皇帝が納得しないでしょう
そういう扱いの人を私の一存で何も無しで開放すると私が殺されますしねぇ」

「死ねばいいじゃないですか‥」ボソ

「さらっと酷い事言いますね‥」

「じゃあ、逃亡とか‥」

「それも私の管理能力を問われますが‥ついでにエリザベート様も。
そもそもかなりのベルフ領土を通って逃げる事に成りますよ」

「何でそもそも、私が貴方の部下になんか‥」

「そんなに嫌ですかね‥」

「だって、平和を壊す悪の組織みたいなものですし。いえ、世間一般的な見解ですけど」

「そういわれるとそうなんですけどね」

「けど‥」



イリアにも選択の余地は無かったのかもしれない
けど「生きてさえ居れば」という思いもたしかにあったと同時に

少なからず、自分達を処刑させないように動いた彼に多少なりとも感謝はあった、だから




「分かりました、受けます、死ぬよりはマシですし」

「ありがとうございます、ただ、仕事はちゃんとしてくださいね」

「はあ、具体的にどういう‥。」

「そうですね、貴女は学があるようなので内政的な事務関係でしょうか
占領作戦とか御嫌でしょう? まあ、私はそういうのには殆ど呼ばれませんが
後はまあ、近衛ですから護衛をてきとーに、武に置いてもなかなかと聞いていますし」

「‥それなら」

「よろしく頼みます」

アリオスは呼び鈴を軽く鳴らした
それを聴き一人の女性が部屋に入る

「はい、アリオス様」

「ああ、キョウカさん、イリアさんの荷物と武器を、あと基礎的な事のお勉強と彼女に部屋を」

「はい」と言ってその女性は下がった


「キョウカ?どこかで聞いたような‥」

「まあ、本名ではありませんけどね。いわゆるコードネームってやつです
古代の花から取ってありますね」

「ああ‥それで」


キョウカは再び部屋に戻り、イリアの武具や所持品を足元に置いた

「では、外でお待ちします」

と再び部屋を出る

それを確認してからイリアは





「ところで‥ライナに会うことは‥?」

「流石にそれは‥。いえ、出立の時に姿くらいは確認できましょう‥一応やってみます」






ライナもイリアも二人の若さと、能力を惜しんだエリザベートとアリオスの工作で
生き長らえる事になる。

尤も、アリオスにはもう一つ別の理由があったが‥それはまた後の話という事になる



第二次大陸戦争も3年目に達する時

ライナ17歳までの出来事であった





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