流の作業場

剣雄伝記〜アリオス編















アリオス=ティアマイス


まだ帝国と自称する前のベルフ国で生まれ、育った少年だった

「戦」という言葉すら禁句になるような時代

大陸条約で固有武力が制限され、永遠に続くと思われた平和の中で皆過ごしていた



父も母も平民で、アリオスも普通の子供だった

上から下まで固まった社会だけに父も母も息子に学問を学ばせた

「平和」であるだけに「商売」や「職人」が息子の人生を豊かにするだろうと考えた


裕福な家ではないが、少ない稼ぎの中から学費を捻出し

息子をある「学士」の元に預けた


名士と名高い学士で無かったがベルフ国で格安で教えをしていた学士である

ぶっちゃけて言うと「安い」から任せたともいえるし

自分達の稼ぎからではこれが精一杯の先生、とも言えた



だが、これが偶然の幸運の一つだった

その学士は「コンスタンティ」30歳の教師である

その人に預けた事の正解が彼の弟子には「名家」として名高い

バルテルス家の長女が居た事だ


本来彼女の「家」の格と裕福さからすればもっと高給を払って良い先生に付く
事も可能であった、が、シャーロット=バルテルスは
この先生に付いた

それだけ「名は知られていないが」確かな者、だと想像に易かった


彼はボランティア教師としても多くの生徒が居たが

専属での弟子、はアリオスとシャーロットの二人だけだった

彼の家に泊まり込み、共に生活し、学んだ


この師の授業は独特だった。日常の生活の中から得られる物

そこから米一つ、麦一粒、着ている物、使っている食器など

どの様に作られ、どの様に使われ、皆糧を得ているか、を教え

どの様な小さな取るに足らない物でもそこに「人」が居る事を教えた


そして通常の学問の授業と併用したのである


「学」を学ぶ者がまず尤も陥り易い 「ただの知識」として処理するする事をさせなかった


それが名士「アリオス」と「シャーロット」を作る結果となった




「このガラスコップは安い物だ、銅一枚で買える物だ。だがそれを作るのに
職人が居て、材料を仕入れて、売って、また別な物を買う
たかが安物のコップとして見逃してはならない
そこに必ず「人」が居て、「それで生活しているものがいる」のだ
戦略も戦術も同じだ、どんな学も同じだ

世の中は「人」が居て動いている、それらの者達の「心理」を知るのだ
さすれば、相手の思考の裏をかく事も難しい事ではなくなる」


「政治において、ただの数ではない、たった一人の者でも人生がある
それらをただの数として処理するような学びはするな」


これが彼の教えの基本である


そしてアリオスもシャーロットもそれを理解するだけの「資質」があった


コンスタンティは、彼はどの学者よりも「個」と「全」を理解して

教えられる稀な人物であった

多くの学問、技術、術も持ち

また、それをただの知識として処理せず、作って、作らせて、使わせる

そういう先生だった



実際、名家のお嬢様でもあり、そんな事をする経験も無かった

シャーロットにも食器作り、裁縫から、料理もやらせた

出来は酷い物だったが


「売っているもの様にするのはえらく難しい」と言わしめ

先生も笑って焦げた料理を平らげた



それが5年続いた後、アリオス15歳、シャーロット14歳の頃

アリオスらは先生からひとまずの卒業から

自らは軍に入った。

「僕の家は貧乏だし、一定した給与の出る軍に入って家を楽にしたい」

との考えだけだった


まだ、大陸は平和であり、戦争など有りはしない、だから軍に入っても

戦死する事も無いだろうと思っていた

実際そこから3年は平和だった

得意でも才能がある訳でもないのだが、剣も学んだ

しかし軍に入ったアリオスは所謂落ちこぼれだった

武芸が出来ないのだから当然でもある


だが、逆に、それゆえに内政官として転属させられそこでの活躍の場を得た

元々が学士に着いて学んだ「知」の人であり

その土台は確かな物だった

彼自身は「戦わないのは楽でいい」とそれに励んだ

その結果あって一年で本軍の補給担当次官と本国の会計等を兼任

異例の出世、と言える速度で大尉にまで成った


「給与も増えるし家も楽になる」と思ったがその直後

母が病死し、その翌年には父も倒れる


ようやく両親に楽させられる、と思った直後の出来事であった

失意の内に彼は一人になり、悲しんだが

それを感受する暇も無かった


元々内政官の少ない国だけに彼だけは、必要から順調に出世したが

この時点でそれ自体どうでも良くなっていた



一時荒んで居た時期もあったが、それを知ってか知らずか、シャーロットから誘いを受ける

「私、王子と姫の教育官に任命されたんだけど、一緒にやらない?私だけだと手が足りないわ」

だった

無論そんな訳は無いのだが、気持ちの切り替えが出来れば、と思い、そう誘ったのである


実際、同じ師に付いて学んだ兄弟弟子でもあり

お互いがお互いの能力をよく知っていた、それもあって紹介したのである



ただ、この「誘い」は功を相した

今までが「学ぶ」立場だっただけに「教える」側に視点を移して行う事は楽しかった

そして王子と姫はこの上なく優秀な生徒だった



この頃、大雨から中央街道付近の山から大規模災害が発生する

長雨から首都でも被害が出て死者も出た



その処理に当たったアリオスは其の中で自分と境遇の似た者を見つける

まだ13歳の少女だったが、災害から両親を無くし

途方にくれていた。

自分も一人だし、気持ちはよく分かる、そこで彼女を拾い自分の家を与えて自由にさせた

出世はしていく。給与は使い道が無い、なら誰かのためにと思ったのである


だから彼女がいつの間にか彼の副官になったのは自然だった

恩義もあるが、お互いがお互いの心理が近いのもあった

家も無く、家族も親戚も居ない、ならばとお互い思った


これが後「キョウカ」と名前を貰った少女である




アリオスは姫、ロゼットへの授業の際、王に会った

指導のついでにロゼットにはチェスと合わせて戦術授業をした

それを見て王は自分と一勝負と持ちかけたのである

「ゲームくらいならいいかな」とアリオスは受けたが

彼は3戦して全て引き分けた



王は面白そうに言った「狙って引き分けるとはたいした奴だ」と

完全に見抜かれていた

陛下のご機嫌を損ねても困る為、意図してそう持ち込んだのを見抜かれた



そこからは王にも一目置かれ、互いに論をぶつけ合う関係になった

そして王はアリオスですら感嘆のため息を漏らす程の「眼」を持った人物であった

奇を衒っているように見えて、大胆、決して本道を外さぬ戦略眼を持っていた







第二次大陸戦争の勃発後

王は自ら「皇帝」と称した

正直、その様な事をするお人共思っていなかった、が

彼とアリオスの個人的な関係から

「国を豊かにする狙いがあるのだろう」とも思い従った


実際「皇帝」の戦略は見事だった

固有武力を制限する条約の中、いち早く軍備を整え

相手が対抗する防衛する戦力を整える前に最速での領土支配を達成していき

瞬く間に中央を制する


アリオスは「将」という立場を与えられながらも

「師」の教えを達成しようともしていた



軍を預かり、指揮する立場に有って、実際に武力行使を行わない

侵攻作戦を展開した

主に包囲と、街道、兵糧の分断圧迫で数で勝ることでの心理圧迫による

降伏を促す策を持ち要り、次々成功させた


ベルフが中央を制するまでの4回の侵攻作戦で実質戦闘での味方の被害を

全て0で達成したのである


其の中でも、戦災孤児や独り身の者等も拾い上げ、身請けするという事も続けた

意図した訳ではないのだが、これが「女人隊」の元である



中央を制し、このまま行けるのでは?と思いかけた頃

「ベルフ最大の敵」が現れる

「銀の国のマリア」である


西侵攻を続けて行ったベルフがここで止められ、躓く

そのまま無視して別ルートから行けば良かったのだが

翌年には再び銀の国へ侵攻して、全滅負けという悲惨な結果で敗退する

この二戦で失った兵力だけでも12000という最悪の結果だった



これにより元々戦略、戦術で一目置かれていたアリオスは皇帝の命を受け

時限式休戦協定を銀の国と結び一時封鎖に成功する

同時、支配地域での内政の安定政策等の実績も上げていく事となる



この時点でも、まだベルフの快進撃が止まったという感覚は無かった

支配地域と領土の広さから、この敗戦は直ぐ取り戻せる、と考えていた

中央地は豊かであるし人口も多い、一時内地に勤めれば失った兵は

回復できると思っていた


ただ、この辺りから、他国の軍備が整い始める

レジスタンス軍とも言える「傭兵団」の出現

平時にあっても軍力を整えた「マリア」


それでも南への侵攻を切り替えた事で南の重要要所

クルベルを落とし、南への橋頭堡を確保するに至る


南進への足がかりとしては重要な物である

しかも、この時「イリア」を得たのである


そして同時潜入を図ってベルフ本国に乗り込んだ「クイック」とも交渉し

協力を得るに至る


特にイリアは戦闘僧でもあり武力もあるが

学もあった為内政事務では大分助けられた





大陸情勢

ベルフ自体の戦略から

この辺りでアリオスも「あれ?」と思い始める

ベルフ以外の国も軍備を整えつつあったのも関わらず

大軍将を東西南北にそれぞれ充て、侵攻を行った点である




そして、その「あれ?」という違和感は現実になる

東メルトへの侵攻の失敗と敗戦

西銀の国への侵攻の失敗と敗戦


更に悪くしたのは西は4万の兵を失った事である

しかも負傷ではなく死亡、もしくは銀の国への捕虜の吸収である

これでこちらは大兵力を失ったのと同時に敵の兵力が倍に強化された

そしてアリオスはマリアに対する為に西に封じられた

これで動きが取れなくなる



この時点で既にアリオスは「東と南のどちらかは戦力を結集して潰すべき」と

考えており、打診もしたがスルーされた

それでも与えられた任を果たしながら、内政の安定に努め、兵の育成

軍備の強化も行い、自身の配下も増やした


そこで起きたのが南進戦争である

五将だったベルフの大軍将に

王子カリステアとシャーロットと姫のロゼットを加えて八将にした事である


そしてこの南進戦争は当初、上手く運んでいた

王子の戦略とシャーロットの戦術がマッチして最高の結果を出していた

このまま削り倒せば南も取れると思っていた

実際過去に打診した通り、南に四将

ロベール、カリス、シャーロット、エリザベートが戦力結集しての

「潰しやすい所から潰す」という戦略に見え

成功は確実だったし、アリオスも何も言わなかった



しかし、そうは成らなかった

南を支えたフラウベルトの聖女エルメイアの南西地域への共闘同盟である

此れ自体、たいした問題ではない

南西地域を加えても、全体戦力に5千程度の兵が上積みされただけの事だ


そのまま削り作戦を続け、全体をまた削れば、何れ維持出来なくなる

そこまで続ければ良いだけである



しかし最悪のタイミング、中途半端の策のまま

中央街道の突破から北伐を皇帝が行ったのだ

これにより、南にせっかく結集した戦力

しかも最大の武力を誇る、ロベールとエリザベートが北と西に充てられ

更に「マリアの知略に対する」為に置かれていたアリオスも北に充てられたのだ


完全に戦略ミスである


これにより、南地域での敵と味方の戦力が拮抗する事となり

更に北伐が始まった事で聖女エルメイアの南方連合が

大陸連合に拡大してしまったのだ


東西南北連合に囲まれる事となり完全に包囲戦の展開になった

「だから先に包囲の一角を崩すべきだったのに」とアリオスも言わざる得なかった


ここまで来るとせっかく構築した状況も意味を成さなくなっていた

連合、特に「マリアの戦略」の知恵が西からどんどん出てくるのである

アリオスが北に出た途端

西デルタを攻められ

南からフラウベルトが反撃侵攻してクルベルを奪取される


それは仕方ないとしても北伐任務も悲惨だった

大陸最大の強国の一つとも言える「獅子の国」が相手である

何故今、尤も面倒な相手と戦う必要があるのか

当然結果は、下がり防衛しながら一定の戦力を削ぐだけの結果になった


ロベールが居た事により、散々な結果では無かったが

殆ど何の意味も無い戦いだった


更に、戦後「北の維持」を命じられ、動けなくなった事である

これも無意味というしか無かった

戦力分断を自ら行った上、遊兵を作っているだけである

残ったアリオスとロベールの兵だけでも一万二千、これがただ北に居るだけになった



連合側は一方で攻勢に出る体制が整い


人材と兵力を間断無く投入して西から崩しを掛けた

一年でベルフ支配地を立て続けに奪取

圧倒的に不利な状況と成った


そして起こった、起死回生を狙って皇帝が行った

聖女とマリアの暗殺

これを失敗し、前線指令のシャーロットに罪を被せて解任した事


これでアリオスは策を打ち、自から命令無視して中央に戻る

「最後の策」の展開である


焦土作戦と見せかけた策を皇帝に具申

ベルフ本国から前線までの支配地域の放棄、撤退

大陸連合軍を本国まで引き込み

本国での戦線を膠着

その間隙を縫って連合側に皇帝へのルートを開け

直接討たせて、戦争を終結させるに至った



この際、様々な事情も明らかになり、皇帝の心変わり

が「皇帝の剣」に寄るものと判明した


「ああ、そうだったのか」としか思わなかった

既に戦後方針も定まりつつあったし

聖女もマリアも稀有な人物であり

大陸は悪くなることは無いだろうと心にあった


剣の一件を追求しようとも、もう思わなかった










マリアと聖女に呑ませた交換条件

ベルフという国を残し、後事を皇帝の子に継がせる

国民に害を成さず、将も生かすという条件も完遂された



そこで全てを見届けたアリオスは大陸から消えた


アテがあった訳ではない、が、もうここには居られない

故に他の大陸に旅立ったのである




彼が救って配下と成ったメンバーもついてきた

「そうしたいのなら、そうしてもいいだろうと思った」

正直、嬉しくもあったが同時に「フリトフルに残ったほうが楽だろうに」とも思ったが

自分がいう事でもないな、とも考えて言わなかった




元々ベルフの領地でもあった東港、罪人島付近から海へ出た

世界、大陸間の交流がほぼ無く、地図も海図も無い

そんな中ので旅立ちである



無謀に近い物だが、幸運な事に、フリトフルの東にある大陸に辿り着いた

そこで地図を入手して眺めた

それだけではしかとは分からなかったが

フリトフル程ではないが「大陸」と言っていい地域だった

自然豊かで、多くの人、町、国のある大陸である



快晴の草原に一同は立ち「次の旅」を始めたのである


「さて‥とりあえず、北東へ‥手近な国に行ってみますか‥」

「どこか国に仕えるのですか?」

「さぁ‥正直、面白ければ何でもいいんじゃないですかね」

「同感です」

「ま、戦争はもういいですけどね‥」

「それも同感です」



こうしてアリオス一行は新たな大地で新たな人生を歩みだした

もう、配下、ではない仲間と共に





















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